希乃子の小説、読んで下さいm(__)m

駄文な小説を書いてます。

僕等の街で。

微(ほろ)酔いの華梛ちゃんをホテルの部屋へ送り届け(偶然にも、僕と同じ大阪華月劇場の入る複合施設のホテルだった。)、僕は改めて、華梛ちゃんに会えた喜びを伝えた。
「祝(しゅう)が、言ったのよ。“大阪の劇場で、お芝居しているはずだから小狼に会えるかもしれない”って。」
「何時迄、日本にいられるの?」
「2週間の短期滞在許可が、あるから後、13日ね。」
それを聞いた僕は、リュックから封筒を取り出し、華梛ちゃんに渡した。
「この手紙だけは、出そうか迷ってたんだけど。大阪の千秋楽の2公演目、華梛ちゃんに来て欲しいなって。でも、無理かなって。」
「何処へ行くのも、簡単じゃないけれど我が儘(まま)を承認させる努力位、するわ。叶わないなら、祝(しゅう)に協力してもらうなり考えるわよ。それでも、ダメなら密入国…。」
「犯罪は、ダメ!!」
僕の言葉に華梛ちゃんは、少し驚いた顔をした。
「華梛ちゃんは、暗闇を優しく照らす月明かりみたいな人で…。だから…。」
“だから”の先を僕は、言う事が出来なかった。泡みたいに言葉が、消えたとほぼ同時に吐き気に襲われたからだ。
それを悟られない様に僕は、普段通りの僕を演じる。(普段通りの僕は、何度となく演じているので、違和感なく演じきれる自信しかなかい。)
「上手く言葉をまとめられないけど、僕の大切な人だから。何時も、味方でいたいし全力で、守りたい。」
「有難う。私も、同じよ。」
「次、一緒に出掛ける機会があるなら午前中から、会いたいな。遊園地とか、動物園とか…。」
僕の言葉を華梛ちゃんは、遮った。
小狼、顔色が良くないわ。私、無理をさせてしまったかしら?」
華梛ちゃんの一言で、僕の自信は一気に消えた。
「そんな事、ないよ。前に手紙で、書いたけど心が、病気で弱ってるから、体に色々な悪影響が出てて。それと、この間ちょっと無理しちゃったから、それの影響だと思う。」
今迄、交わした手紙の中で僕逹は、嘘偽りなく自分を曝(さら)け出していた。誰にも、言っていなかった様な事もお互いに知っている訳で。(僕の持病の件は、噛み砕いて子どもに説明するかの様な手紙をしたためて送っていたのだけれど。)
「会いたいなんて、祝に言ったから…。」
「会えるかもって、状況になったら僕も、華梛ちゃんに会いに行くと思う。メモ書きを受け取った時、初めて声が、聴けるって思ったら、すごく嬉しかったし。」
ベッドに腰かけると、僕は吐き気がマシになった気がした。
「座ったら、楽になったから多分、大丈夫。薬、飲んでも良い?薬の量が、多いから引くかもだけど。」
僕は、そう言ってリュックを開いた。何時でも、応急手当が出来る様に色々と、詰め込んだリュックの中身に華梛ちゃんは興味を示した。
「医師って、誰もが何時も、色々と持ち歩いているの?」
「どうだろ?他の医師に聞いてみた事が、ないからなぁ。僕が、色々と持ち歩いてるのは、応急措置をしなきゃいけない状況に成人する迄に102回程なったからで。」
その大半は、葵だった。それは、人が急に倒れた時の対応に僕が、慣れてしまった原因の1つだと思っている。
「リュックの中身の大半は、お守りみたいな感覚で持ち歩いてるんだ。ほとんどが、街のお店で手に入る物だし。聴診器は、葵…。あ、心友の形見のだけど。」
「会ってみたかったわ、聴診器の持ち主に。10年前に小狼を見付けられていたら…。」
「きっと、“会って欲しい”って、葵にに言ってたな。葵は、張り切ってスイーツを作っただろうね。お菓子作りが、趣味だから。」
服用する薬が、多いので1つずつ、確認しながら薬を飲み終わる頃には、僕の吐き気はすっかり、治まっていた。



~続く~

僕等の街で。

華梛ちゃんとは、初対面なはずなのに僕の警戒心は全くなく、29年の空白を埋める様に様々な事を語った。
「これから先、何があっても、私が小狼を守るからね。雪隠れの里が、消滅したとしても。」
完全に酔っ払った華梛ちゃんが、僕に諭す様に言う。
「ある人に言われたの。大切な人は、守らなきゃダメだって。悲しませちゃダメだって。」
「ある人?」
「私の許嫁(いいなずけ)だった人よ。彼の一族が、彼の妹を除いてお亡くなりになったから白紙になってしまったのだけれど。」
華梛ちゃんの口調は、“彼の事が、いまだに好き”という言葉が滲んでいた。
「彼の治(おさ)めていたLuLu(ルル)王国も、消滅してしまって。あの頃には、珍しく内乱もなくて、戦もしない平和な国だったのよ。法制度も、しっかりしてて。」
「彼は、華梛ちゃんと同じ狐だったの?」
「彼は、狐の遺伝子を持つネオ・バンパイアだったの。」
ネオ・バンパイアは、バンパイア又はネオ・バンパイアに噛み付かれた事により、生まれる種属だ。彼等は、元々違う種属であるが為に隠している事が、多くカミングアウトしている例は、まだまだ少ない。
そして、厄介なのがバンパイアと名の付く種属の吸血本能で、薬物依存症に似た状態が一生涯、続くらしい。平均寿命が、1000年程と言われているバンパイア属にとってこれは、長年大問題だったそうだ。(過去に取っ捕まえたバンパイアに聞いた話によるとだが。)
「華梛ちゃんは、異界の人なん?ここ、妖怪さんがよう来るねん。観光ガイドブックに載せてもろうてるらしくて。」
「華梛さんは、小狼のお姉さんで…。え?!小狼って、え?!」
小狼の家庭事情は、複雑らしくてな。あんま、話してくれへんけどな。産みの母ちゃん、狐さんらしいで。そう言う俺は、魚人の友人が東京におるねん。」
ダニエルが、話すとどんなに重い話も、軽くなってしまうから不思議だ。
「マスターってさ、話を軽くするの得意だよね。魚人の友人が、いるとかさらりと、言っちゃう辺りとか口も、軽い。頼まれれても、秘密は漏らすし。たまに約束とか、忘れるし。んで、女好き。どーしよーもない男だけど、俺はそんなマスターが人間として、好きなんだけど。」
ダニエルは、翼が言った通りの人間で、追加すると後天性の軽い記憶障碍持ちだ。(そうなった経緯は、知らないが物忘れが、酷い以外には日常生活に支障は、ないらしい。)
「大阪って、異界のどの国とも違う素敵な街ね。会う人、皆が優しくて。」
「あ、そだ。ダニエル夫妻に来て欲しいなって、思って送ろうと思ってたバスミュの大阪公演の千秋楽の招待券。これ、出汁にして良いから、奥さんに謝ってよね。」
「関係者席やんか、これ。俺、関係者ちゃうで。」
「毎年、事務所のイベントの時とかにボランティアで色々と、手伝ってくれてるからそのお礼が、したくて。」
本当は、手書きの文章を添えて郵送するつもりだったのだけれど。
「俺で、ええなら何時でも、扱(こ)き使ってもろてかまへんで。社長さんにそう言うといて。」
「直接、言えば良いじゃん。事務所の感謝祭を手伝ってくれるんでしょ?僕は、今年も残念ながら、不参加だけど。」
「バスミュ、最優先やから仕方ないんやろな。息子も、いてへんから迷ってたんやけど小狼君が、そう言うてくれるなら、手伝いに行かせてもらうわ。」
そして、「華梛ちゃんに大阪の街と、人を褒めてもろたからな。今日のお会計、3割引きでええで。小狼君が、額装して店に飾る用の色紙にサインを書いてくれるなら更に何時でも、3割引きや。」と、付け足した。
「どうしよっかなぁ。」
口では、そう言いつつも僕の手は、色紙にサインをしていた。



〜続く〜

僕等の街で。

「華梛さんは、小狼がどう見えてるの?」
ダニエルの浮気話を広げるのは、不毛と判断した翼により、話が変わる。僕の図上には、質問の意味が分からずに“?”が、いくつも浮かんでいた。
小狼って、ガード硬いっていうか…。本心が、分からないっていうか…。少なくとも、俺は心を許す様なヤツじゃないって、思われてるなって。」
「そんな事…。」
当たっているので、僕の言葉は途中で、途切れる。
「俺が、勝手に思っているだけだから。返事に戸惑うよな、友人に急にそんな事言われて。だから、忘れて…って記憶力が、良いから無理か。」
そして、翼はまた話題を変えた。
小狼が、一時期金髪ロン毛だったの知ってる?」
「知らないわ。そんな不良な事…。」
「誤解を招く様な事、言わないでよ。あれは、仕事で芝居をする為に役作りで、してただけで…。」
僕が、金髪だったのは後にも、先にもデビュー作の舞台に関わっていた時期だけだ。
「生徒指導の先生に生徒指導室に呼び出されてたよな、高等部の入学式の日に金髪の肩位のロン毛だったから。で、生徒指導室から帰って来たら、黒髪だった。」
「金髪の許可は、取ってたんだけど。入学式に金髪は、ヤバいだろうってなって。それで、黒髪スプレーをぶっかけられた。」
翼の話を聴いた華梛ちゃんは、笑いを堪えるのに必死だった。
「ごめんなさい。金髪で、長髪な小狼を想像してしまったのだけど…。どう想像しても、似合わないの。」
それは、僕も感じていた事なので否定は、しなかった。



〜続く〜

僕等の街で。

小狼君が、来てくれるなんて夢、叶ったわ。息子に連れて来て言うても、連れて来てくれへんし。」
マスターこと、細身のイケメン外国人ことダニエル・マッキャンは、息子のエディーではなく僕の熱烈なファンだったりする。(昔は、ステージパパだったはずなのだが。)
「お酒、呑めないから…。」
「1口で、べろんべろんだもんな。そうそう、その時の写メったヤツだけど永久保存版として、パソコンに保存してる。」
「それ、データをコピーしてくれへんかな?俺のコレクションに加え…。小狼君が、嫌そうにしとるし見せてもらうだけにしとくわ。」
コレクションの品については、気になるけれど僕は聞かなかった事にした。
「レディにドン引きされるの、分かっとるからなぁ。お嬢さんは、ヤバいヤツやて思うてるやろ?」
「マスター、華梛さんが困ってるじゃん!!」
陽気な関西弁男にフランクに話し掛けられて、華梛ちゃんは間違いなく、戸惑っていた。多分、陽気な関西弁男に話し掛けられた経験がないだろうし、答えに困るような質問をされたのも初めてなのだろう。
「華梛ちゃんかぁ、ええ名前やな。今日、出会ったんは運命…。」
「自分の店で、口説くなよ。また、杏奈さんが家出しても、知らないから。今日だって、常連さんと恋仲一歩手前になってたのがバレて、杏奈さんがブチギレて、東京に行っちゃって…。」
翼の言葉に僕は、ダニエルに冷たい視線を送る。過去に5度、同じ話をエディーから聞いた記憶があったからだ。
「杏奈さん、仏過ぎでしょ。普通の人は、多分だけど5度の浮気を許さないよ。それなのに6度目なんて、反省しない訳?!」
そう言って、僕は気付く。僕の隣には、12人の男(もっと、増えるかもしれない。)と、浮気した母を許した姉がいる事に。



〜続く〜

僕等の街で。

南野さんの言うお洒落なバーの名刺サイズの案内に書かれた“M's Bar”という店名に覚えが、あった。エディーの両親の店も、そんな名前だった。
「いらっしゃ…。小狼、久し振りっ!!」
「翼(よく)、大阪で商売を始めたの?」
大阪で、翼…宮田翼に会うなんて僕は、考えていなかった。
「マスター夫妻が、急遽上京中だから代りを頼まれちゃって。俺、ここの常連で。勝手にお店で、カクテル作ったりおつまみ用意しても、何も言われない所かカクテルの作り方を教えてもらってたから。それは、置いといて。彼女持ちで、美女同伴ってさぁ…。」
「浮気を疑ってるなら、違うから。彼女は、僕の種違いの姉の華梛ちゃんで。まだ、公表してないから言わないでよね。で、M'sバーのマスター代理の宮田翼。えっと、9歳からの友人で…。今の本業、何?」
「親父の会社のイベント関連の部署で、社長になる修行中。親父の会社は、創業家の人間が必ず社長になれる訳じゃないから100%社長になれるとは、限らないんだけど。」
そんな会話をしつつも、チーズの盛り合わせを手際良く用意してくれる翼に僕は感心していた。
「今日は、貸し切り予約営業だから誰も、来ないし。特別に色々と、サービスしちゃう。」
小狼の周りには、素敵な方が沢山いるのね。ちょっと、羨ましい。私は、何をするのも自由では、ないから。」
そして、華梛ちゃんは僕に頬笑む。
「こういうお洒落なお店で、お酒を呑むのって初めて。お酒にも、詳しくないし…。」
「華梛さんは、お酒って強い?」
「どうかしら?人並みには、呑めるはずなんだけど。」
小狼とは、大違いだな。コイツ、成人式の後の同窓会で呑んだ日に乾杯のビール1口で、酔っ払ってさ。そんでもって、記憶がぶっ飛んだらしいから。」
恥ずかしながら、1口でべろんべろんに酔っ払ったのは本当の話だ。そして、記憶がぶっ飛んだのは僕の別人格だった小野寺雄輔君が、危険と判断して、表へ出て来たからだった。
小狼の事、もっと知りたいわ。」
「そう?じゃあ、何から話そうかな?超難しいって、噂だった特別転入試験を満点合格したって話は?」
翼は、僕に話して良いかを確認しながら、思い出を語った。黒歴史として、葬り去りたい過去の1つや2つは、誰だってある事を多分理解しての事だ。
かれこれ、1時間が過ぎた頃、マスターの男性が現れた。陽気な大阪弁を巧みに話す細身のイケメン外国人…エディーのお父さんだった。



〜続く〜

僕等の街で。

大阪公演の初日、多少のハプニングはあったけれど、満員御礼の最高の舞台だった。
「さっき、小狼に渡して欲しいって、べっぴんさんからメモを預かったんやけど。」
劇場スタッフから、受け取ったメモには走り書きで、“劇場1階のスターボックスで待ってます”とだけ書かれていた。その文字に僕は、見覚えがあった。
劇場スタッフにお礼を言い、僕は夢を見ているのではないかと、頬を摘まんでみた。会いたいと、思い続けた種違いの姉に会える事が頬の痛みを感じても、俄(にわか)には信じられなかった。


劇場1階のスタボは、混んでいた。Lサイズのホイップクリームたっぷりのココアを注文し、僕は写真でしか、見た事のない姉の姿を捜した。
小狼、こっちよ。」
母に似た声を頼りに席へ向かう。そこには、姉の他に南野さんがいた。
「南野さん、その頭の包帯…。」
南野さんは、頭に包帯を巻いていたから、僕は驚いて尋ねる。
「この間、駅のホームで人命救助をした時にちょっと、ね。各メディア媒体で、ニュース沙汰になっちゃったし詳細は、小狼君も良く知ってると、思うけど。」
その言葉で、全てを察した僕はそれ以上、質問しなかった。
「今日、南野さんと華梛ちゃんに会えるとは、思わなかったな。」
大阪府警の特別捜査課に呼び出されたの。琥珀…、私のストーカーみたいなボディーガードの事で。」
「その説明、犯罪を犯したみたいに誤解されるから。」
「そうね。私、琥珀が常に傍にいるのが嫌で、仕方がなくて。それで、ストーカーみたいって言ったの。」
「何で、大阪府警に?」
「親戚の葬式に参列するのにこっちに来てて、ダンプカーに轢き逃げされたらしくて。担当になった刑事と、偶然のたまたま知り合いだったから真っ先に僕に連絡が、来たって訳。」
話が、進まないので南野さんが、説明してくれた。
「それで、琥珀さんは大丈夫なんですか?」
「奇跡的に生きてる。両足、粉砕骨折…他にも何ヵ所か骨折してるって聴いたけど。」
「両足、手術して骨がくっ付いてからのリハビリが、大変らしいので。ちゃんと、支えてあげて。元通りに動く迄にすごく時間が、掛かると思うから。」
「流石。医学の知識、すごいね。救急医って、皆そうなの?」
自分の専門領域以外の医学知識を深堀りしている医師なんて僕以外にいるのだろうか?考えてみたけれど、多分いないので僕は、否定した。
「救急医?」
「あ、小狼君の前職は医術師で…。」
「こちらの呼び方に慣れていないものだから、ちょっと考えてしまったのだけれど。教えてくれて、有り難う。」
品行方正という四字熟語を体現したかの様な姉。ニュース番組で、時々拝見している皇族の方々に似ていると僕は、感じていた。
「それから、忙しいのに付き合ってくれて有り難う。この後、祝(しゅう)は東京に戻るのよね?祝に今度は、何時会えるのかしら?」
「今、桜が丘警察署で抱えている事件が一段落したら、必ず会いに行くよ。国王陛下にも、お会いしたいし。」
そして、南野さんが僕に言う。
「本当なら、華梛ちゃんが帰国する迄、傍にいたいんだけど…。難事件になりそうな事件が、待ってるから今日中に東京に戻らないといけなくなっちゃって。」
「あの、無理しないで下さいね。傷口、開いちゃったら大変だから。」
「有り難う。あ、そうだっ。大阪府警の知り合いに教えてもらったお洒落なバーを予約してるんだった。小狼君の予定が大丈夫なら、2人で楽しんで来て。」
僕に名刺サイズのカードを渡すと、南野さんは帰って行った。



〜続く〜

僕等の街で。

長時間、葵を僕の体に憑依させていたからか異常な程の倦怠感と、眠気に襲われていた。(長時間、幽霊に体を貸した割には、僕の心身の負担は軽かった気が、していた。)


大阪華月劇場。そこは、高松塚歌劇団や、劇団蒼風(あおかぜ)等の劇団の定期公演(劇団蒼風と、高松塚歌劇団は実験的な研究生公演が、ほとんどらしい。)だけでなく歌手のライブや、各種講演会も行われる場所だった。
「いつか、ここでSOULのライブ出来たら、良いな☆でも、その前にバスミュを頑張る。」
開演2時間前。まだ、観客が誰もいない劇場の舞台から、観客席を見渡す。
沢山の笑顔と、拍手とを想像しただけで僕はワクワクしていた。
小狼、発見!!小狼も、ここの劇場は初めてな感じ?」
静寂を破る様にトッキーが、僕に近寄って来る。
「トッキーも、そうなの?」
「実は、大阪に足を踏み入れる事自体が初めてで。京都には、西映の撮影所で時代劇の仕事が多いのと、転勤族だったのとで小3から、3年位は住んでたんだけど。滋賀県寄りだったから、そっちは良く行ってた。」
京都市って、広いよね。中学の修学旅行で、行ったけどあそこだけで、京都府全域に行く気になってたもん。」
僕は、修学旅行の前にガイドブックを見て、驚いた1人だった。(何時も、連(つる)んでいたメンバー全員がそうだった。)
「あ、そうだった。小狼に言おうと、思ってた事があったんだ。」
「何?」
「青っちからメールが届いてた。“約束、すっぽかしてごめん。”って。先週、事件のあった日にご飯に誘ってたのね。青っち、忘れてなかったんだなって感動しちゃった。ダブルブッキングとか、忘れるとかしょっちゅうしでかしてたのにさ。」
「しょっちゅう約束とか、大事な事を忘れるからアドバイスした甲斐が、あったか。」
僕の言葉に納得するトッキー。
「それから、もうリハビリ始めてるって。スゲーよな、オレだったら間違いなく、気持ちが砕け散ってるつーのに。」
「青葉=ポジティブの塊だから。僕とは、正反対。」
僕は、そう答えたけれど青葉の気持ちが、拾い集めて組み立てるのも難しい程、粉々に砕け散った日を僕は知っている。難解なパズルのピースの様なそれを丁寧に拾い集め、組み立てている最中だった事も…。



〜続く〜

僕等の街で。

「運動会、今年も超、楽しかったー。赤組、勝ったしー。地区対抗リレー、勝ったしー。小狼君が、いたしー。」
海斗は、葵に嬉しそうに言う。
「楽しかったけど、白組は1点差で、負けちゃったのが残念。」
陸斗は、白組だったので悔しそうだった。
「青組も、負けちゃったから来年は勝ちたいな。」
曜介君と、龍(ロン)君は青組。 (3色なのは、児童数が多いかららしい。)
「来年は、何組になるか分かんないよ。毎年、担任の先生が決めるんだから。」
「そうなの?!前の小学校は、赤組と白組だけだったし、1年生の時からずーっと、同じだった。」
曜介君が、びっくりしながら希望に言う。
「そういう学校も、あるんだな。今度、やひ…岡島先生に聞いてみよ。」
「そう言えば、弥彦は島流しから、帰って来てたんだね。しかも、双子の担任。何で、言ってくれないの?」
ここで、葵が希望に質問。
「知ってるかと、思ってた。てへぺろ☆」
「“てへぺろ☆”で、許されると思うな。まったく…。」
てへぺろ☆”の意味を葵が、知っていた事に僕は少し驚いた。
「秘密、ばらされても良いのかなぁ?」
希望の言葉に僕は、ドキドキしていた。ばらされたらヤバい秘密は、瞬時に考え付いただけでもいくつかある。
「葵、さっさと成仏しろよ。葵の気持ちも、分かんなくもないけど。」
僕と、葵にだけ聴こえる声で希望が、言った。
「バレてた?!完璧に直人の振りしてたつもりなのに?!」
葵が、ワタワタするのは相変わらず、面白い。(希望に耳打ちする余裕は、あった様だけれど。)
「オレだけかもな、気付いたの。安心しろ、さっき脅したけど、ばらさないから。墓場迄、持ってくよ。」
「有り難う。」
「あ、忘れてた!!今夜、6時からcafe cloverを貸し切りにして、運動会の打ち上げがあるんだけど、小狼も来てよ。」
希望の声のボリュームが、普通に戻る。
「誘ってくれたのは、嬉しいんだけど。これから、仕事で大阪に行かなきゃいけなくて、ごめん。行けないや。」
葵の言葉に残念そうなのは、希望だけではなかった。
「来年は、ご飯に来る?」
海斗が、葵に聞く。
「100%、保証は出来ないけど、来年は行くよ。」
「運動会は?運動会は、来る?」
陸斗が、続ける。
「運動会も。」
そして、葵は双子を抱き締めた。



〜続く〜

僕等の街で。

渋沢区内の公立小学校の運動会の地区対抗競技は、いくつかある。各競技の1位は、区民運動会に学校代表で出場出来るのだが、地区対抗リレーはその中でも、1番の盛り上がりをみせていた。


「1位、おめでとう!!」
地区対抗リレーで、桜が丘地区が1位になったのは、6年振りの事らしいので桜が丘地区のテントは、温かな拍手と言葉に包まれていた。(陸上経験者を集めて、勝つのはフェアじゃない気もするが。)
「区民運動会、優勝の報告待ってます。骨折、治すの頑張って下さいね。」
葵が、修二さんに声を掛ける。その声は、少し緊張していた。
「有り難う。まさか、転んで骨折するとは…。人生、何があるか分かんないね。」
「本当にねぇ。葵が、こんなに可愛いお嫁さんをゲットするとか予想外☆」
幸子さんが、双子の母親の未来ちゃんを抱き寄せながら言った。
「“可愛いお嫁さんを葵が、見付けたのが予想外”だって。人生、本当に何があるか分かんないね。」
葵が、戸惑う未來ちゃんに手話を交えて完璧に伝える。
「人生、何があるか分かんないけど。葵を好きになってから、どんな事でも受け止められる様になった気がするの。」
「母は、無敵だね。」
「そうかも。だけど、正解がある様で、ない子育てに迷う事もあるし、悩む事もあるし…。毎日、思うの。葵だったら、どうするのかなとか。こんな時には、何て言うのかなとか。私が、聴覚障碍者っていうのも、あるから余計、不安になるのかも。」
未來ちゃんの子育てに対する本音を聴いてしまった葵は、何と応えるのだろう。僕は、やきもきしながら未來ちゃんを見詰めていた。
「不安な時、迷っている時悩んでいる時、何時も傍にいられたらって…。そんなの無理だから、話を聴くから。全力出し過ぎると、後で大変な事になるしね。」
「常に全力疾走してる小狼には、言われたくないわよねー。」
幸子さんが、葵と未來ちゃんの話に割り込む。
「セーブしてるつもりなんだけど、全力疾走してる様に見える?」
「見える!!」
未來ちゃんと、幸子さんの言葉が重なり、2人は笑い合った。



〜続く〜

僕等の街で。

「曜介君、足早いんだねー。」
4年生の借り物競争。曜介君は、最初のグループで白組の大きな応援団旗を持っての1位ゴール。
「借り物競争って、運だろ。ネットを素早く、くぐってお題を拾って。物(ぶつ)を早く見付けた方が、有利。」
朔さんが、葵の言葉を否定する。それに反論する間もなく、海斗がお題に向かって、走り出す。
「海、“桜が丘地区の黄色い服の男の人”ってお題を引いてる!!」
桜が丘地区のテントは、お題とは反対方向だし、ゴールから遠い。お題の書かれた段ボールのプレートを誰よりも、早く確認した葵が叫んだ。
お題が、不利な物だったけれど葵と、希望の連携でどうやら、海斗は最下位を免れた様だった。
悔しげにしている海斗へのフォローは、後でするとして、僕と葵は、陸斗と李君を捜した。
「陸と、李君は同じ最終グループかぁ。頑張れー!!」
「あー、李君がコケた!?」
「陸、お題引いてから固まってない?難しいの引いたか?!」
陸斗は、お題を掴んだまま呆然と、立ち尽くしていた。他の子は、最後にお題を手にした子を含め探しに向かっているのにだ。
「あ、こっち来る!!えと、お題…。“お父さん”って、え?!何で、そんなお題が、入ってるの?!」
葵の言葉で、桜が丘地区のテントはざわついた。
「あの!!小狼君と、走りたい!!」
葵にお題を見せながら、陸斗が言う。
「走って、やれよ。“お父さん”の代走って、事で。」
誰かの言葉で、葵は決心したらしい。ルール通りに陸斗と、手を繋ぎ軽やかに走り出した。


小狼、相変わらず足早いわねぇ。あれで、何割?」
浅原園の肝っ玉母さん事、副園長の小百合さんは葵が、手を抜いた事を見抜いていたらしい。
「3割位しか、力を出してない…かな?主役の子ども達以上に目立つのも、あれでしょ?」
葵の言葉は、何だか格好良いし、13年のブランクを感じさせない葵の走りに僕は、感心していた。



〜続く〜

僕等の街で。

「直人、通ってたんだよね。懐かしい?」
葵の問いを僕は、否定した。 浅原園に在園していた頃、僕は桜が丘小学校に通っていた。
その頃は、何もかもが嫌だった。だから、だろうか。懐かしいと、いう感情は全くなかった。
「何の思い入れも、ないな。」
小狼には、感謝してるんだ。」
僕と、葵の会話に割り込む様に希望が言う。
「小学校5年生の時の宿泊学習、行きたくなかった。裸を晒(さら)したら、絶対に苛(いじ)められるって。同級生だけじゃなく、他のクラスの子や6年生にも。」
「目立つもんね。特にお腹の火傷の所とか、背中の痣(あざ)とか。」
宿泊学習の参加は、強制的な物ではなかった。参加許可書なるプリントが、毎年必ず5・6年生に配られていたからだ。(全員参加の空気が、流れる中での不参加欄に丸なんて勇気が、要りそうだけれど。)
「それで、桜が丘学園初等部の敷地に忍び込んで守衛さんに捕まってた訳だ。」
この事は、葵が知らないので、僕がフォロー。
「忍び込んだんじゃないよ!!小狼の宿題のプリントが、俺の宿題に紛れ込んでたから届けようと、思って。敷地が、広くて迷ってただけ。宿泊学習に行きたくないって話は、ついで!!」
浅原園を卒園し、小学校を転校しても同室だった希望とは、算数と国語を教えるという名目で、交流を続けていた。
「その割には、深刻そうな顔してた。」
「深刻にも、なるよ。人生が、掛かってるって思ってたから。その時に言われた言葉で、俺は救われたし、今に繋がってる。」
僕は、希望が左腕を擦(さす)っているのを見逃さなかった。葵も、気付いたらしい。
「腕、痛む?」
「時々ね。前の住人が、ベロンベロンに酔っ払ってしょっちゅう帰って来るから、アパートを引っ越そうかなって思ってる所なんだけど…。なかなか、理想の物件が見つからなくてさ。」
「桜が丘ハイツ、なんてどう?空室だらけだから、即入居可能だと思うよ。小学生位の地縛霊の男の子が、いるけど。」
葵が、勧めたのは僕の住むアパート。
「良く、そんなアパートに住めるよな。」
「そう?ちなみにその子、僕と同居してるんだけど、純粋無垢な良い子だよ。その子のお陰で、通常の家賃が8万5千円の所、1万5千円。」
葵の言葉に希望は、「家賃を値下げするって、言われたとしてもそんな部屋に俺は、絶対に住みたくないし契約しないな。」と、言った。



〜続く〜

僕等の街で。

運動会の昼休み。それは、わくわくするお弁当タイム。
小狼のサンドイッチ、もらって良い?」
桜が丘地区の場合、お弁当タイムは地区の皆で、集まって食べるのでお弁当のシェアは、普通の事だったりする。(浅原園が、あるから自然と、そうなったらしい。)
「沢山作ったから、食べて♪僕、小百合さんの玉子焼きを食べたいです。」
葵の言動に不自然な点は、ない。
「あのね、4年生は午後から借り物競争が、あるんだよ!!」
プログラムを指差しながら、陸が葵に教えてくれる。
「予行練習の時は、校長先生ってお題だったんだけど、何が当たるか、分からないからドキドキするよねー。曜介君は、保健の先生だったでしょ。龍(ロン)君は、ホイッスル。海は、小太鼓で…。」
「6年生の応援係の子に貸してってお願いするのちょっと、ドキドキした。」
体育の時間の練習や、予行練習の事を知らない葵に地区の皆が順に話してくれた。
「今年も、小狼は運動会に来ないかと、思ってた。」
ふと、希望(きぼう)が葵に言う。
「今年こそは、行きたいって頑張ったんだ。陸と、海の勇姿を生で見たくて。えと、双子の父親の代わりに。」
小狼は、双子の父親みたいな存在だもんな。葵の遺言?」
「遺言とかじゃなくて、自然とそうしようって、思って。それで…。」
葵は、僕の言いたい事をそのまま言葉にしてくれている。今の所、僕のフォローはいらなさそうだ。
小狼、色々あんまり頑張り過ぎるなよ。」
「気を付けるね。」
「あ、言い忘れてたけど地区対抗リレー、ちゃんと子ども達に陸上走りを教えてるから、それで。」
聞けば、3年連続で桜が丘地区は、最下位。1位をもぎ取る秘策として、出場する大人は陸上経験者を集め、子どもは足の速い子を選んだらしい。
更に正規のバトンパスを教え込んだそうだ。
「あの、僕マネージャーで…。」
「映画で、リレー選手をやってた小狼なら、出来るって♪それと、マネージャーって言っても高校時代は、幽霊だったじゃん。」
「でも、ちゃんとお守りを…。」
葵の言葉を希望が、遮る。
「武運長久って、板切れの入ってたあれだろ?」
「武運長久ってなーに?」
葵と、希望の会話に陸が割り込む。
「兵隊さんが、戦場で長く戦って、勝てます様にって意味。」
修二さんが、すかさず説明。
「あれ、ご利益なかった様な…。断捨離した時、迷わずに捨てた。」
「念を込めたんだけどな。」
嫌がっていた割に葵は、運動会を楽しんでいる様だった。



〜続く〜

僕等の街で。

陸斗と、海斗の運動会の当日。僕は、ラジオ渋沢の放送局から2人の通う小学校へと、向かっていた。
僕が、双子の運動会に行くのは2年振りで、小学校へ入学してからは初めてだ。
「僕、直人の振りをし続ける自信ない。」
運動会に向かっていたのは、正確には僕では、なくて僕に憑依させた葵。
「僕の振りをしなくても、良いと思うけどな。普通にしてれば、大丈夫だって♪何かあったら、僕がフォローするからさ。ま、バレた時はバレた時って、事で。」
今の僕は、自由に体を動かせないし葵としか、会話出来ない状態。
「そうだよね。」
葵に僕の体を貸した理由は、葵の何気ない、「陸と、海にはパパっぽい事、何もしてないなぁ。」という言葉が切っ掛けだった。
「葵、有り難う。地区対抗リレーの代走迄、引き受けてくれて。」
「昨日、左手を骨折した父さんの代走を直人が、頼まれたんだから必然的にそうなるでしょ。」


残念ながら、かけっこには間に合わなかったけれど、運動会前の体育の授業のほとんどを費やしたであろうダンス迄には間に合った様だった。
「SOULの曲に組体操を混ぜるのって、斬新。考えたの誰だろ?」
「今年度、島流しから帰って来た4年生の担任の岡島先生らしいわよ。それから、3年生の担当の先生方とアイデアを出し合って、振り付けしたんですって。」
双子の祖母にして、葵の母である幸子さんの言う“島流し”と、いう言葉。それで、僕達はピンときた。
「弥彦、4年生の担任なの?!」
「あ、聞いてなかった?」
葵は、首を横に振った。



〜続く〜

僕等の街で。

僕の溜め息は、青葉が巻き込まれた事件の詳細を事務所の会議室で知ると、更に深くなった。
どうやら、久し振りにプライベートな用事で妹の緋色若葉ちゃんに会っていた時に若葉ちゃんの熱狂的な男性ファンに駅のホームから、突き落とされたらしい。(周囲の人には、カップルに見える様な行動をしていた事も、問題がある様な気も、しなくはないけれど。)
「虹ガの若ちゃんと、兄妹なんて初耳なんだけど。」
陵介が、“知ってた?”という顔で言う。(ちなみに虹ガ=レインボーガールズという、7人組の女性アイドルグループの略称。そして、若葉ちゃんは初期メンバーの1人。)
陵介は、知らなかったみたいだけれど両親の離婚と、母親の再婚とで若葉ちゃんの苗字が、違う。
「虹ガって、熱狂的な男性ファンが多いんだよな。ファンを通り越して、ストーカーまがいな事をしてる輩もいるけど。それは、運営も把握してたっぽい。ファンクラブサイトに警告文が、最近掲載されたから。」
SOULのファンには、ストーカーまがいな輩はいないので衝撃的な話では、ある。(“日本一マナーの良いファン”を目指そうと、なうつぶでファンがファンに呼び掛け、賛同するファンが沢山いるのが、理由かも知れない。)
そして、初めて陵介が、ガチの虹ガファンだとその場にいた全員が、知った訳で。
「線路に飛び降りて安全な場所に避難させてくれた人に感謝だよ。その人のお陰で、電車に牽かれなかったんだから。」
大雅の言う通りで、青葉は運が、良いのか悪いのか、分からない状況になっている。
「で、どうすんの?青葉の冠ラジオ。生放送でしょ?SOULの仕事は、どうにかなるだろうけど。」
陵介が、桜井さんに聞く。
「ラジオの件は、SOUL の当番制に決ま…。あ、事後報告でごめんよ。とりあえず、今週は小狼、宜しく。」
僕は、引き受けてから思い出す。陸と、海(かい)の運動会の日だと。



〜続く〜

僕等の街で。

10月。バスミュの稽古は、終了し13日連続(土日祝日は、3公演。)の東京公演、最終日。
「サンドイッチ、もーらいっ☆」
葵が、毎日作って持たせてくれる小さめのキャンディ型のサンドイッチ。 僕以外の誰か(キャストだけでも、38人程いる。)が、食べる事を見越して3段重ねの重箱にぎっしり詰め込まれた物だ。(しかも、手紙付き。)
「女子力高いよなー。こんなん、毎日…。」
「これ作ってるのが、女子なら最高の誉め言葉だと思うんだけど、残念ながら男なんだな。」
趣味も、性格も女子っぽい葵の作るサンドイッチと手紙を見れば、勘違いする人がいて、当然だと思う。
小狼の恋人って、男…?!」
「違っ!!これ、同居人が作ってくれてるの。」
「噂の幽霊君でしょ?青っち…一瀬青葉に聞いた。」
トッキーと、青葉が繋がっていたなんて、初耳だったから僕は、驚いた。
「事務所の先輩の村っちが、酔っ払った勢いで召喚した事が、あってさ。青っち、面白いなって。」
「召喚して、来る前に寝たでしょ?村っちって、そういうヤツだから。」
「それも、含めて面白くて、愛(いと)おしい先輩で友達。」
愛おしいは、聞かなかった事にして僕は、ブログとして公開される予定のメールを打つのを中断して、サンドイッチに手を伸ばした。
「そだ、写メ撮ろうよ!!皆のブログ、アップ用に。ブログに載るの禁止な人、いない訳だし。」
自然な流れで、そんな話になり撮った写真は、しっかりと幽霊が、写り込んでいた。
「青葉の守護霊が、離れるなんて…。」
僕は、言葉を言い終わる前に思い出していた。青葉が、意識不明になったあの日もそうだった。


青葉の守護霊の話を聴いた僕の口からは、溜め息しか出なかった。青葉が入院したらしいからだ。
直ぐにしなくてはならない事は、何かを僕は分かっていた。青葉の父親への確認電話が、最初。
守護霊の話が、嘘っぱちではないと確認したら、葵と為吉君への伝言を黒龍に託す。グループlaneをメンバーとマネージャー宛に送信し、いまだにガラケーな社長には、電話を入れ事務所に今夜中に集まる約束を取り付ける。
「青っちが、入院?!」
「また、事件に巻き込まれたっぽいんだよね。あ、これまだ誰にも、言わないで。」
僕は、そう言うと深い溜め息を吐いた。



〜続く〜