希乃子の小説、読んで下さいm(__)m

駄文な小説を書いてます。

僕等の街で。

華梛ちゃんとは、初対面なはずなのに僕の警戒心は全くなく、29年の空白を埋める様に様々な事を語った。
「これから先、何があっても、私が小狼を守るからね。雪隠れの里が、消滅したとしても。」
完全に酔っ払った華梛ちゃんが、僕に諭す様に言う。
「ある人に言われたの。大切な人は、守らなきゃダメだって。悲しませちゃダメだって。」
「ある人?」
「私の許嫁(いいなずけ)だった人よ。彼の一族が、彼の妹を除いてお亡くなりになったから白紙になってしまったのだけれど。」
華梛ちゃんの口調は、“彼の事が、いまだに好き”という言葉が滲んでいた。
「彼の治(おさ)めていたLuLu(ルル)王国も、消滅してしまって。あの頃には、珍しく内乱もなくて、戦もしない平和な国だったのよ。法制度も、しっかりしてて。」
「彼は、華梛ちゃんと同じ狐だったの?」
「彼は、狐の遺伝子を持つネオ・バンパイアだったの。」
ネオ・バンパイアは、バンパイア又はネオ・バンパイアに噛み付かれた事により、生まれる種属だ。彼等は、元々違う種属であるが為に隠している事が、多くカミングアウトしている例は、まだまだ少ない。
そして、厄介なのがバンパイアと名の付く種属の吸血本能で、薬物依存症に似た状態が一生涯、続くらしい。平均寿命が、1000年程と言われているバンパイア属にとってこれは、長年大問題だったそうだ。(過去に取っ捕まえたバンパイアに聞いた話によるとだが。)
「華梛ちゃんは、異界の人なん?ここ、妖怪さんがよう来るねん。観光ガイドブックに載せてもろうてるらしくて。」
「華梛さんは、小狼のお姉さんで…。え?!小狼って、え?!」
小狼の家庭事情は、複雑らしくてな。あんま、話してくれへんけどな。産みの母ちゃん、狐さんらしいで。そう言う俺は、魚人の友人が東京におるねん。」
ダニエルが、話すとどんなに重い話も、軽くなってしまうから不思議だ。
「マスターってさ、話を軽くするの得意だよね。魚人の友人が、いるとかさらりと、言っちゃう辺りとか口も、軽い。頼まれれても、秘密は漏らすし。たまに約束とか、忘れるし。んで、女好き。どーしよーもない男だけど、俺はそんなマスターが人間として、好きなんだけど。」
ダニエルは、翼が言った通りの人間で、追加すると後天性の軽い記憶障碍持ちだ。(そうなった経緯は、知らないが物忘れが、酷い以外には日常生活に支障は、ないらしい。)
「大阪って、異界のどの国とも違う素敵な街ね。会う人、皆が優しくて。」
「あ、そだ。ダニエル夫妻に来て欲しいなって、思って送ろうと思ってたバスミュの大阪公演の千秋楽の招待券。これ、出汁にして良いから、奥さんに謝ってよね。」
「関係者席やんか、これ。俺、関係者ちゃうで。」
「毎年、事務所のイベントの時とかにボランティアで色々と、手伝ってくれてるからそのお礼が、したくて。」
本当は、手書きの文章を添えて郵送するつもりだったのだけれど。
「俺で、ええなら何時でも、扱(こ)き使ってもろてかまへんで。社長さんにそう言うといて。」
「直接、言えば良いじゃん。事務所の感謝祭を手伝ってくれるんでしょ?僕は、今年も残念ながら、不参加だけど。」
「バスミュ、最優先やから仕方ないんやろな。息子も、いてへんから迷ってたんやけど小狼君が、そう言うてくれるなら、手伝いに行かせてもらうわ。」
そして、「華梛ちゃんに大阪の街と、人を褒めてもろたからな。今日のお会計、3割引きでええで。小狼君が、額装して店に飾る用の色紙にサインを書いてくれるなら更に何時でも、3割引きや。」と、付け足した。
「どうしよっかなぁ。」
口では、そう言いつつも僕の手は、色紙にサインをしていた。



〜続く〜