希乃子の小説、読んで下さいm(__)m

駄文な小説を書いてます。

僕等の街で。

諭吉をほったらかしで、南野さんと立ち話をしていたので、諭吉にその事を詫び僕は、部屋のドアに手を掛けた。僕の部屋に上がり込んでいるのは、大家の赤井さんだけのはずだった。

しかし、僕と諭吉を出迎えたのは、見知らぬ旧日本陸軍の将校クラスの軍服を着た男と為吉君だった。

「あの、仕事のご依頼でしょうか?」

小狼、違うよ。この人が、陸軍さん…えっと、佐藤さんだよ。」

「じーちゃんに手紙を託したって軍人さん…?!あ、諭吉ごめん!!旧日本陸軍の将校さんも、硫黄島からいらっしゃってるけど普通に入って、大丈夫だから。」

小狼の家、新しめだし広っ!!この辺の家賃相場、安いったってさぁ。家賃、どうなってんの?!」

都内の家賃相場を全て、調べてからそれを条件に入れて、賃貸アパートを探した訳ではないのだけれど、確かに桜が丘の家賃相場は都内では、安い方の部類らしい。

「このアパートが、幽霊アパートって呼ばれている元凶の部屋だから、僕が出て行く迄は、共益費込みで1万5千円。」

「そんな部屋、良く借りる気になったな。俺は、絶対にそんな部屋を借りたくないな。」

「前に住んでたアパートを老朽化で、取り壊すから退去して欲しいって言われてさ。退去期限は、1年位先だったんだけど入院してたりとかで、じっくりねっとり探せなくて。」

そんな僕の言葉を拾い、「だからって、空室だらけのアパートの1番安い部屋に好き好んで住むんだから、どんな変人がって気になるよね?」と、赤井さんが諭吉に聞いた。

「それで、ハワイから遠路遙々と、トレンディドラマとかの彼女みたいなノリで突然、訪ねて来るって…。それに人の部屋で、家主の許可なしでカレーを作るとか、普通じゃあり得ないですよ。」

「家主不在で、幽霊がカレーを作ってるってのも、普通じゃあり得ないけどね。後、幽霊が訪ねて来るってのも…。」

僕は、赤井さんの言葉を無視して諭吉を招き入れた。それから、「そうだ!!佐藤さん、良かったらカレーを食べて行きませんか?」と、佐藤さんに言った。

「幽霊って、ご飯を食べるの?!てか、お腹空くの?!」

「空腹感は、感じないらしいけど嗜好品感覚で、食べ物は食べられるらしいよ。まあ、食べ物をって人は、あまりいないだろうけど。僕の家に来たら、誰でも普通にお茶出したりして、もてなしてるんで佐藤さんは、気にしないで、大丈夫なんで。」

「カレーの鍋、デカくね?それにめっちゃ甘口な香りしてるし。」

「カレーって、最低でも1週間分は、作れる大きな鍋一杯に作る物だって思ってたけど、諭吉のカレーは違うの?」

「1週間、カレーは飽きるだろ。食費を削って、カレーにするにしてもせいぜい、3日位で食い切れる量を作るもんじゃね?」

僕が、諭吉に反論する前にサラダとカレーライスと、水とマジョラム茶が、テーブルに並んだ。

「今日のカレーは、赤井さん特製のハワイアンカレーだよ♪あっ、佐藤さんのお口に合うかどうか分かりませんが、美味しいので食べてみて下さい。」

葵が、そう前置きして佐藤さんの前にカレーを置いた。

「有り難う。久方振りの本土は、随分と様変わりしてしまって…。自分の家の場所も、分からないなんて…。」

佐藤さんの言葉が、途切れる。

「無理も、ないですよ。東京は、空襲で1度、焼け野原になりましたし。ご家族は、岡山県内に東京大空襲の半年前に疎開したみたいで、皆さん無事だったみたいです。娘さんが、今も岡山市内に住んでるので、成仏する前に行ってみてはどうですか?」

「成仏するって、どうして決め付けるんだよ?!この世に未練たらたらだから、地縛霊してたんだろ?」

諭吉が、佐藤さんの答えを遮り僕に言った。

「地縛霊って、未練たらたらで成仏出来ない霊って、一括りにされがちだけど。下手したら数千年前、数百年前から地縛霊してて、もう何で、地縛霊してるか忘れてる霊も、いるし。そんな霊が、口コミで訪ねて来たりするから、そうかなって。」

「それ、話を聴くだけでも大変そうだ。」

確かに諭吉の言葉通りなのだけれど、大袈裟に言えば日本の平和維持に繋がるので、儲からないと嘆きながらも、止(や)めない理由になっている。

「話を聴くのは、嫌いじゃないし。むしろ、教科書に載ってない歴史とか、教科書に載ってる歴史の間違いとか裏話とかを聴けるから楽しくて。」

「テストの解答が、確実にややこしくなるパターンだな。下手したら、そんな人存在してないとか、そんな事してないとかあって。」

邪馬台国が、何処にあったかの話は学者先生達の説が、珍妙なのもあって面白いから、内緒にしときたい事の1つだな。確か、インドネシアのジャワ島説とかあったし。」

ここで、葵が口を挟む。

徳川埋蔵金とか、ロマンあるよね。あれも、場所とかに色々な説がなかったっけ?」

徳川埋蔵金の場所?それは…って、言わないっ!!成仏したら、あっちで徳川慶喜にでも、聴いてよ。地獄に堕ちてなくて、転生してなかったらだけど。」

「そんなのも、知ってるの?!」

僕の葵への返答に諭吉が、驚く。

「信憑性が、高い噂レベルの話は複数人に聴いた事が、あるけど言わない。」

「又一郎さんも、同じ様な事を言っていたが、幽霊との会話が、楽しいと言うのは又一郎さんの影響か?」

佐藤さんの言葉に僕は、驚いた。

「じーちゃんが、そんな事を…?僕、若い頃のじーちゃんの事を全然知らないんです。写真は、空襲でほぼほぼ、焼けちゃったみたいで。残った写真や、戦前の日記は、終戦直後に燃やしたって、言ってたから。それに語りたがらなかったんですよね。僕も、聴きたがらなかったですけど。」

「語らなかったのは、支那人だったからかも知れないな。大東亜共栄圏を掲げて、アジア民族の独立と謳っていたが、実際は植民地化を推し進め、日本人以外は差別的に又は、人体実験の材料…物として接していた人も少なからず軍にはいたな。日本人では、ないと分かってしまえば、スパイ容疑等の難癖を付けてもしくは、理由も告げられずに憲兵やら、警察やら軍人やらに連行される事もあったから、慎重になるだろう。」

そこ迄、一気に言って佐藤さんは、カレーを頬張った。

~続く~