希乃子の小説、読んで下さいm(__)m

駄文な小説を書いてます。

僕等の街で。

秋の風が、聞き覚えのある声達を運んで来たので、僕はこの場から、一刻も早く立ち去りたいと思った。しかし、それは間に合わなかった。

「しーくん!!」

僕を発見し、嬉しそうに走り寄って来る幼子の声に僕は全力で、普段通りの僕を演じる事にした。子ども相手なら、多少の違和感はあれど、何とか乗り切れるだろうと判断したからだ。

「奏太君に公園で、会うなんてびっくり。今日は、ピクニックご飯の日なの?」

僕は、“やっちまった”という顔をしている希望に“気にしないで”のウィンクを送りながら声の主に尋ねた。

「そうだよ。あのね、まーくんがおべんとうにきてるから、とくべつなの。」

「お弁当じゃなくて、お勉強な。小狼、ちょこちょこ来てるし会った事、あると思うよ。鈴木正信君に。彼、オレに憧れて保育士目指してて。児童養護施設とか、乳児院とかそっち方面で、働きたいんだって。んで、ウチで2週間の施設実習中で。同時進行で、就活してるからめっちゃ、大変な時期な訳だけど。」

奏太君の言葉を希望が、補足し僕は、その言葉に遠くを見詰めた。正信君に最後に会ったのは、東都医科大附属病院の救急科の医師になる事を決めそこで、医師として働き始めた頃だった。(比較的に安定して稼げる副業その2だと、思っていたから専門医を目指す事は、全然考えていなかった。)

 ふと、正信君との交流を思い返し感慨深く感じた。

「さくらちゃんが、怖がってないのすごいね。そんな能力、あったんだ。それとも、女性と勘違いしてる…?」

 正信君は、女性と見まがう抽象的な顔立ちに黒髪のおかっぱボブだったから、男性恐怖症(そうなった原因は、聴いていないので知らないが。)のさくらちゃんが勘違いしているかと、僕が思う程、正信君にベッタリだった。

「あー、小狼に慣れんのに大体1年位だったよな。オレに慣れんのは、3か月位だったし。ウチの施設に幼女にヤバい事をしようなんて、ヤバい男は今の所いないから大丈夫って、思ってくれてるのかもな。話変わって、視力良過ぎなのは相変わらずで、羨ましいんだが。3.0だっけ?」

「6.0だよ。普通に視力検査すると、2.0以上としか測れないから、今の正確な視力は分かんないけど。」

 

 

 僕を見付けたさくらちゃんは、奏太君と同様に一目散に駆け寄って来た。転びそうになるさくらちゃんを僕は間一髪で、抱き止めた。

「桜井先生が、たまたまいて助かったー。」

久々に会った正信君は、僕が東都医科大附属病院の医師を辞めていても、僕の事を“先生”と呼ぶ事にしているらしかった。

「聞いて下さいよ。オレ、チャリ乗ってて今月、すでに17回も警察に止められたんすよ。一昨日なんて、半日で2回っすよ。良い加減、補聴器とワイヤレスイヤホンの見分け方を周知して欲しいっすわ。補聴器なきゃ、ほぼ無音だしそれで、チャリ乗れって危険運転しろって、事っすよね?!」

「残念な話だけど、世の中の日本人の大多数が持つ聴覚障碍者のイメージって、言葉の発音が変で、手話を使ってる人らしいし。」

「オレも、こうなる前は聴覚障碍者って、そんなイメージだったから分からなくもないっすけど。桜井先生のアドバイス通りに補聴器外して、説明しつつ音が、しないの確認してもらってそれで、100パー納得してくれる人ばかりじゃないのがちょいと、面倒で。この間は、紛らわしいからチャリ使うの止めろって言われて。」

正信君は、中1の頃に虐待による頭部のケガの後遺症で両耳に補聴器なしでは、健常者と同等の日常生活を送る事が出来なくなったらしい。

「後、学生寮のヤツに高屋敷清命の息子ってバレたんすよ。探偵雇って、オレの今住んでる所を特定したらしくてあの人の幼馴染みって精神科医が、訪ねて来て。油断してたオレが悪いんすけど。」

高屋敷清命は、胡散臭い高心精教なる新興宗教の教祖を父親から受け継ぎ安倍晴明の弟子の生まれ変わりであると、喧伝していた人物だ。(安倍晴明の弟子の生まれ変わりと、喧伝していたのは少しでも、胡散臭さを和らげる為だったのかも。)信者から金を搾り取れるだけ、搾り取っていた事や、マルチ商法まがいの事をしていたのが週刊誌にリークされたのを皮切りに信者の修行と称した虐待死やら、有害化学薬品や爆弾の密造やら爆弾テロ事件等の様々な悪事を世間が知る事となり死刑囚として、2年程前に死刑執行された人物だ。

「それで、あの人の話を…?大丈夫だった?」

「あの人と、オレとオレの弟の信考を救えなくてごめんって、ずっと言いたかったって。記憶が、色々とブッ飛んでるっしょ?弟の事は、全然覚えてないし正直言って、10年前に死んでるとかも未だにピンと来てないんすよね。それ、正直に言ったら複雑そうな顔してた。」

僕は、時々相槌を打ちながら、正信君の話を聴いていた。

「あの、センシティブ過ぎて聴いてなかったんすけど。桜井先生は、里親の話が出た時って、どんな感じだったんすか?嬉しかったとか?」

 「嬉しいなんて、全然。祖父の遺言って、聞いたから最終的に仕方ないって、割り切った感じ…かな。僕を養子にするって、貧乏くじ引いたようなもんじゃんって未だに思ってる。」

 「貧乏くじ!!あの人の幼馴染みにそう言えば、良かったか…。」

 正信君は、僕の返答に小声で独り言を呟いた様だった。僕は、それを聴こえなかった事にして話題を変えた。

 

 

〜続く〜