希乃子の小説、読んで下さいm(__)m

駄文な小説を書いてます。

僕等の街で。

2週間振りにアパートに戻ると、僕の部屋の電気が付き、窓が開いていた。

小狼、お帰りなさい。あのね、葵君が喘息の発作が、出て祝さんに窓を開けて掃除してもらったの。ついでにご飯を作るって、祝さんがお台所にいるわ。」

窓際の本棚の上にいたみつが、窓の外から中を覗いた僕に言う。

「で、葵と為吉君は?」

「葵君は、祝さんのお家で疲れて寝てるみたい。為ちゃんは、かえでちゃんと遊んでるわ。今日、さくらさんがお仕事でいないんだって。」

「みつ、教えてくれて有り難う。それと、今日の服も可愛いね。みつは、何を着ても可愛い❤」

今日のみつの服は、僕が詩織のロリータな私服(新品のブランド品は、高いから自作した服やそれっぽい古着が、ほとんど。)と、桜が丘学園の女子の制服の写真を参考に作った紺色のセーラーワンピース。

「私、何にも出来ない役立たずなのにこんなに良くしてもらって…。」

「みっちゃんは、ちゃんと役に立ってるよ。かえでの遊び相手になってくれるし。」

窓を閉めに来たらしい南野さんが、言った。

「みつは、いてくれるだけで良いんだよ。可愛くいてくれるだけで、僕の癒しだから。」

僕も、みつに素直な気持ちを伝えた。

「あ、小狼君のお部屋に勝手に上がり込んで掃除して、食材持ち込んでご飯作ってて…。連絡、しないでごめんね。緊急事態で、バタバタしてたから気付いた時には小狼君が、帰宅してて。」

「いえ、葵の事を有り難う御座いました。」

「ご飯、出来たからかえでと、為ちゃんを呼んで来てくれる?後、葵君も食べられそうだったら一緒に食べようって、伝えて。」

「たこ焼きと、オムライスって、どういう訳でこの組み合わせ?」

葵は、たこ焼きはご飯のおかずにはならない派の人間で、たこ焼きとご飯を一緒に食べる人には、必ずこの質問をする。

「今日、SOULのメンバーが事務所に呼び出されたから、お土産のリクエスト聞いたらたこ焼きってなってさ。そのついでに買って来たら、南野さんがご飯を作ってくれてたから。」

「僕が、喘息の発作を起こしてたからそうなったんだ。色々と、ごめんなさい!!」

元々、蒼白い葵の肌が何時も以上に蒼白く感じる。

「今日は、無理しちゃダメだからね。」

「うん、そうする。何か、今は何時も以上に背中の真ん中辺りが、痛くて。膵臓が、原因だと思うんだけど。」

僕は、朴先生に頼み込んで特別に葵の電子カルテを見せてもらった事が、ある。その時は、腫瘍の転移した場所に膵臓は含まれていなかった。(後に幸子さんに見せてもらった葵の記録ノートにも、日記にも記述は、一切なかった。)

それを僕は、指摘すると葵は、「説明聴いてた時に1回、喘息の発作が出ちゃって。多分、その日のノートは抜けてるから、それでかも。」と、言った。(2005年10月9日以降の記述は、葵の体調の良くない日が多く、記録ノートにも日記にも、事細かには書かれていなかった。)

「幽霊になったら、痛みとか苦しみとかから、解放されるって思ってたんだけどな…。霊感強い人じゃなきゃ、見えないのと壁抜け出来るのと、念じたら瞬間移動出来る事以外は、生前と変わんないし。病気って、死んだら治る物じゃないの?!」

葵のその言葉に僕は、耳を疑った。

「書類にサインする前に説明、聴かなかったの?注意事項とか、諸々の説明に納得しない人には、サインさせちゃダメな決まりなはず…。」

「そうなの?全然、そういうのなかったけど。」

葵は、幽霊になる申請をして通れば、数日~数年程この世に滞在出来る事と、夢枕に立てる事のみを言われたらしい。

「日本死神協会東京支部長に今度会ったら、文句言わなきゃだな。それと、葵が説明を受けてないって事は、書類が無効になるから…。」

僕の言葉にいち早く反応したのは、僕の膝の上にいるみつだった。

「葵君、いなくなっちゃうの?」

「それは、葵次第かな。注意事項とか、諸々を説明しなきゃなんないし…。確認しなかった僕にも、非があるし…。この場合、どうするのが正解…?」

僕は、天使に覚醒したばかりの頃に読んだマニュアルになかったか、記憶をひっくり返してみるけれどそんな記述は、なかった。

「僕、まだ成仏する予定はないよ!!直人が、いても良いよって、言ってくれるなら…だけど。」

葵が、僕を見詰める。

「即刻、成仏しろなんて言わないよ。基本は、マニュアルに忠実にだけど。想定してなかったみたいで、マニュアルに載ってないし僕だって、臨機応変に融通を利かせる位はするって。まあ、サインする前にされるはずだった面倒な説明は葵の発作が、完全に落ち着いたら聴いてもらうしかないけどね。後々、ゴタゴタしたら余計に面倒だし。」

僕の言葉に葵が、驚いた顔をするので、「びっくりする様な事、言ってないよ?」と、言いながらマジョラム茶を飲み干した。

「超真面目で、超完璧主義な人間から融通って、言葉を聴く日が来るとは思わなくて。随分と、性格が丸くなったなって。」

葵に言われ、改めて“融通”という単語を躊躇(ためら)わずに使う事が出来た自分を褒めたいと思った。

~続く~