希乃子の小説、読んで下さいm(__)m

駄文な小説を書いてます。

僕等の街で。

小狼君と、葵君の関係って、羨ましいな。心が、通じ合ってる感じで。兄弟みたいにみえる時も、あるし。」

南野さんが、笑う。

「兄弟…。」

為吉君が、呟く。

「大丈夫!!きっと、何時かはお兄さん達に会えるって!!あ、あの話しよ。紀元二千六百年特別観艦式の!!観覧に当選したから、横浜で本物の比叡とか長門とかを見たんでしょ?僕、白黒の写真とかでしか見た事がないから、羨ましくって。」

初めて、戦時中に使われていた戦艦大和の写真を見た時の僕の目は多分、輝いていた。プラモデルになったり、ゲームで登場したりするのも、瞬時に理解出来た程格好良いと、思ったのだ。

「直人、何だかんだで、色々な事にめっちゃ詳しいよね。今時の若者は、紀元二千六百年特別観艦式なんて知らないと思うけど?」

「円満に成仏してもらうには、世間話やら雑学も、大事なスキルの1つだから。戦時中に水戸で、町医者だったって言ってた幽霊と、医学の話をした時とか良いアドバイスを聴けたしね。」

小狼君、本当にすごいよ。3ヶ月で、為ちゃんと仲良しになっちゃうし。この部屋の住人の中で1番、長く住んでるし。みっちゃんを引き取って来ちゃうしで。」

「ためちゃんと、おともだちになってからたのしかったけど、しゃおらんくんがおひっこししてきてからは、すごーくたのしいの!!」

かえでちゃんが、僕に言う。

「僕も、ここに引っ越して来てからすごーく、楽しい。ここの近所の桜が丘荘に住んでた時は、お隣さんと交流なくて。ご飯を一緒になんて思わなかったし。」

「そう言えば、そこも幽霊アパートなんて、呼ばれてたね。署内では、旧幽霊アパートで通じてたなぁ。」

南野さんが、言う。

「蔦が、生い茂った築65年のオンボロアパートってだけだったんですけどね。オンボロだからって、理由で桜が丘の平均より、家賃が安かったんで、住み続けてたんですけど。」

「この部屋の比じゃないでしょ?大家さんから、聞いたんだけどこの部屋、入居者を募集し始める前から幽霊が出るって、噂になってたらしくて。1ヶ月以上契約してくれた人が、小狼君以外にいなくて、泣く泣く1万5千円に下げたら、小狼君が、食いついたって訳らしいよ。」

僕は、海外に住んでいるらしい大家さんに会った事がない。家賃は、銀行振り込みだしこの物件は、大手の不動産仲介業者の運営するサイトで、見付けた物だったので契約に赴いた先は、その仲介業者の最寄りの支店だった。(吟味している時間が、なくて即決したので噂話は、知らなかった。)

なので、僕は大家さんの事を南野さんに聴いた。

「大家さんが、どんな人かって?今、娘さん家族とハワイに住んでるよ。今年、還暦だったかな?4年前にひょっこり、帰って来た時はハワイの教会で、働いてるって言ってたけど。一応、常識はある人だから、大丈夫だよ。」

“一応、常識はある人”という文言は、40分程後には訂正される事となった。何の連絡もなく、大家の赤井隆人(たかひと)と名乗る男性が、名刺とハワイの定番土産品(みやげ)マカダミアチョコを持って訪ねて来たのだ。

「幽霊アパートの幽霊が、出る部屋を1ヶ月以上借りてくれている青年に会ってみたかったんだ。ついでに南野さんにも、会いたくなって来ちゃった。」と、大家が玄関先で言う。

僕は、“恋愛ドラマの主人公の彼女か、あんたは?”と喉迄、出かかった言葉を飲み込む。

「大家さん、紅茶はお好きでしたよね?小狼君が、良いと言えば、上がって紅茶をば。昼間にモンブランを余分に作ってしまって、1つ余ってるんです。」

僕が、了承し折り畳みテーブルをもう1つ出すと赤井さんが、入って来る。

「昨日、イギリス王室御用達ブランドの超高級茶葉を手に入れたんで調度、良かった。小狼君、僕の部屋の冷蔵庫に入っているモンブランを持って来てくれない?」

「いやー、良い人に借りてもらえて、本当に良かった。それも、桜井家の直人君だなんて。幽霊の件、何とかなるなら勇太郎に相談しとけば、良かった。」

紅茶を啜りながら、赤井さんが、言う。僕は、会った事がなかったが養父(=勇太郎)と、桜が丘学園幼稚舎時代からの悪友らしい。(警察に補導される様な事は、していないらしいが。)

「あの、押し入れのお札って…?」

僕は、押し入れのお札の出所が気になっていたので、赤井さんに訊ねた。

「お札?そんな物、あったんだ。南野さんは、知ってた?」

「多分、4年前に実質2日程住んでた人が貼ってったヤツだと、思うんですけど。それから、この部屋に住み着いた人っていないし。」

「そうだったんだ…。それから、家賃ってどうなっちゃうんですか?この部屋にずっと、住んでる鈴木為吉君を僕は改心させちゃいましたし。不動産屋さんには、伝えたんですけど放置されてて。」

家賃については、僕の1番の気掛かりだった。

「ここにずっと、住んでる幽霊の名前は鈴木為吉君って言うんだ。格好良い名前だね。僕は、18位迄は幽霊と、会話してたしハタチ位迄は、見えてたんだよ。でも、還暦の今は気配と、悪霊かどうかを感じ取れるだけになっちゃった。」

寂しそうに赤井さんが、言い僕が、「見えない方が、良い時の方が遥かに多いし、見えなくなって良かったと思います。」と言った。

「勇太郎も、同じ様な事を言ってたなぁ。えっと、家賃の件だけど直人君が、退去する迄値上げしない事にするよ。」

「有り難う御座います!!」

「こんな好青年になら、長く借りて欲しいし。」

この街では、良い出会いが多過ぎる。多いに越した事は、ないのだけれど。

「直人君の膝に座ってるお嬢さん、桜が丘学園高等部の合宿所にいた九十九(つくも)神でしょ?茶道部の使ってる部屋に前理事長が、置いた…。」

「みつの事、知ってるんですか?!」

「知ってるよ。俺が、中1の時の話だもん。その後すぐ位から、合宿所に幽霊が出るって噂になってさ。堂明寺のクソ坊主と、勇太郎が何回、ぶちギレた事か…。でも、元理事長がめっちゃ、嫌がるから堂明寺のクソ坊主が、引き取れないし勇太郎も、お焚き上げ供養出来ないしでそのままだったんだよね。」

僕の膝の上のみつが、オロオロしているのを僕は感じた。

「みつの事、誰も叱らないから大丈夫だよ。乙女心を全然、理解してなかった義父さんには、後で文句を言わなきゃな。たまーに僕より、沸点低い時があるから、売り言葉に買い言葉だったんだろうって容易に想像出来るし。」

乙女心に疎い養父が、結婚出来たのは奇跡だと、養父を良く知る人は口々に言っていた程に乙女心を分からない人だ。

「乙女心ねぇ…。俺も、そういうのちょいとばかり疎いからなぁ。気付いてたら、止めてたんだろうが…。」

赤井さんが、苦笑する。

「小6のホワイトデーに唯一、本命っぽいチョコをくれた女子に手作りのビックリ箱を贈る様な男だからな。まあ、その子と結婚するなんて、あの時は思わなかったよ。」

相手が、喜ばない様な品を養父がプレゼントしてたのは昔からだったのかと、妙に納得してしまう。

「さてと、8時になるし4年程空き家にしてた我が家に帰るかな。俺の家、このアパート1階の右端で、2週間はいる予定だから。」

赤井さんが、微笑む。

「そうだ!!直人君、都合良い日の昼間にハワイアンパンケーキを食べに来てよ。本場仕込みの味、食べて欲しいしもっとゆっくりと、お喋りしたいし。為吉君と、もう1人いるっぽいから君と、みつちゃんも来てよ。」

「来週の水曜日なら、今の所予定ないので、伺います。」

「じゃあ、来週水曜日の10時半頃に。あー、楽しみだなぁ。」

赤井さんは、嬉しそうにそう言って去って行った。

~続く~