バックナンバー&過去作品:merumo.ne.jpをドメイン許可にして、00605453s@merumo.ne.jpに空メールをお願いしますm(__)m
“サクラミシタ先生”の放送を聞いてしまい、巻き込まれる形で救命救急センターへ向かう。そこは、滅多にない中国語と、日本語の飛び交う異様な場所と化していた。
首都直下型地震に備え、建て直された真新しい建物内の普段は無駄に見える広い待合室は、無駄ではなかったと、証明された。
「ごめん、小狼を巻き込んだ…。」
「ゴタゴタに巻き込まれるの慣れているから、平気。」
僕は、鈴花の頭をポンポンする。
「大変、だったよね。我先に治療して、欲しいって人ばかりでさ。」
「小狼が、いてくれて助かったな。中国語が、話せる職員ってそんなにいないから。」
運ばれて来た大勢の負傷者は、中国からのクルーズ旅行の乗客達だった。楽しい豪華客船でのアジア旅行は、船上火災によって散々な物と、なったに違いない。
「あの中国人達、思いやりとか助け合いとか、譲り合いの精神みたいなのないの?!」
「残念ながら、そういう人が多い国だから。」
中国語で、まくし立てる中国人達の言語通訳をしていたので僕の脳味噌は、疲れ果てていた。
「今度、借りは返すから。」
「今回、プラマイ0で。」
「良い事、あったの?」
僕は、それには応えなかった。
ザルな鈴花が、コンビニで大量のビールと、つまみになりそうな物を買い込み僕のアパートにいる。僕は、夕食当番なのでチャーハンにわかめスープ、サラダを作ってテーブルに並べた。
葵は、せめて人並みの体力を付けようと為吉君を巻き込んで、筋トレをしていた。
「今日のメニュー、終了☆」
「葵、頑張るねー。」
ビール缶片手に鈴花が、言う。
「体中のあちこちが、今日はあまり痛くないから頑張れちゃう。」
僕は、思い出す。強がっていた葵が、“本当の気持ち”をさらけ出してくれた2005年12月21日を。
ケータイ越しだったけれど、葵が精一杯、強がっていた事を本当は、不安と恐怖で、押し潰されそうな状態である事を、葵の体が声なき悲鳴をあげている事を僕が、察した日だった。
「今日、遅かったね。」
為吉君が、僕に言う。
「サクラミシタ先生に呼び出されて、手伝ってた。」
「レアケースじゃん。サクラミシタ先生の放送なんて。」
意味を知っている葵が、そんな事を言う。
「日本語通じて、トリアージの理解をしてくれる人達だったら楽だったのにさ。」
「まだ、言ってる…。サクラミシタ先生が、困ってたのは日本語通じない、自己チューな金持ちの中国人だったから。」
「それは、疲れるよね。鈴花が、オッサン化するのも分かる気がする。」
葵の言葉に気を良くした鈴花が、葵をバシバシ叩いた。
〜続く〜