希乃子の小説、読んで下さいm(__)m

駄文な小説を書いてます。

僕らの街で。

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 「自分の曲、初めてCDで、聞いたかも。」
 「メンバー皆、聞かないの?」
 愛理さんが、僕の発言に驚く。
 「青っちは、めっちゃ聴いてるっぽいけど、青っち位かな毎日、何度も聴いてるの。僕は、ダメな所ばかり気になっちゃうから、最近はなるべく聴かない様にしてるんだよね。」
 「とうとう、超完璧主義者卒業したか。」
 「どうだろうね?」
 “仕事は、完璧に熟(こな)さなければならない。120%の完璧な仕事で、成功させるのがプロの暗殺者で、ある。”と、僕はそう言われ、育った。“暗殺者”を止めた今でも、この教えが根付いている訳で。
 それを否定し、楽な気持ちで仕事をする。それは、僕にとって始めは、難しい事だった。
 今は、大分(だいぶ)慣れたけれど。
 「超が、外れただけで完璧主義者なのは、変わらないかな。」
 「鈴花には、そう見える?気を付けなきゃ。」
 「また、ぶっ倒れるからあんまり、頑張り過ぎちゃダメだからね。」
 鈴花の言葉に僕は、反論出来なかった。
 「コーヒーゼリー、美味しいね。」
 葵が、少し重くなった空気を吹き飛ばそうとしてか、突然言った。
 「でしょ?葵のスイーツに負けない様に日々、試行錯誤してるからね。目標は、薔薇の小道56号改をcafe cloverの皆と試食した時の感じかな。上手くは、言えないけど。」
 優斗さんが、葵をライバル視しているのは今も、変わらない様だ。
 「今日、葵が来てくれてるんだ。」
 この場で、唯一の霊が見えず声も、聞こえない人である愛理さんに優斗さんが言った。
 「私、大人になったら霊感なくなっちゃって、全然分かんないから一方的に話すね。」
 それは、僕と鈴花が、初めて聞いた8年前の事だった。


 何時も、カフェ入り口のボードに書いてある営業時間より30分早く、店を開ける事にしていた。理由は、開店前に並ぶ馴染みの常連客がいたから。(どうやら、その常連客は並んでいる自分、格好良いと思い込んでいたナルシストな大学生だったらしい。)
 2006年3月16日。
 「その日は、何時も早く来る常連客より、早く来た女性客がいてね。その人、初めて来たのに開店時間が早いの知ってたみたいでね。」
 女性は、カウンター席に座るとコーヒーゼリーだけを頼んだ。
 「そこで、初めて誰だか、分かったの。その女性客が、葵だって。」
 「葵、その時…。」
 「病院に入院してて、危篤状態だった。でも、間違いなくいたの。」
 前日の夜、病院を抜け出して中国へ行った時の格好(詩織の私服=ピンク系の甘いロリータ服に厚底のピンク色のおでこ靴と、黒のゆるふわカールのウィッグにミニハット)の葵は、“病院を抜け出して、ここに来る為に詩織に衣装一式借りてメイクして、もらった”と、言った。
 「病院を抜け出してでも、来たい場所って言われたのが、嬉しくて。」
 「オムライスと、コーヒーをサービスしちゃった♪」
 葵の病気の件は、話題にしなかった。話題にしたのは、葵の年下の奥さんの事、産まれて来る双子の赤ちゃんの事にこれから訪れる希望に満ちた双子の未来の事、等々。
 大半は、聞かなくても葵が、話してくれた。
 「葵、親馬鹿だなぁって。」
 「それと、幸せそうだったな。」
 葵のデレデレした姿を僕は、容易に想像出来た。
 「葵の話を1通り聴き終わった頃に幸子さんから、電話掛かってきて。葵の居場所特定されたんじゃないかって、言いながら電話に出た優斗が、固まってた。」
 幸子さんは、葵の死を告げた。今、目の前で葵は、オムライスを食べているのにだ。
 「葵の念が、生み出した物体だったって初めて、気付いたんだ。そしたら、“有り難う”しか言葉が、出なかった。」
 “有り難う”だけで、現した優斗さんの複雑な気持ちや言葉を葵は、即座に理解した様子だった。
 「状況が、飲み込めてないの私だけ。聞いちゃったもの、電話なんだったって。」
 「ちゃんと、言ったよ。正直に葵が、往生したって。そこで、オムライス食べてる葵は葵の強い念から、生まれた葵の分身みたいな物なんだって。」
 その日、開店時間前に客が来なかったので喫茶YOU&Iは、臨時休業。
 「私、一生分泣いたって思った位、泣いたなぁ。優斗は、涙脆(もろ)いから私の倍は、泣いてたかも。」
 「僕も、貰い泣きした。」
 「念を飛ばす余裕あったなら、もう少し…。」
 僕の感情は、複雑に絡み合い言葉の最後の部分は、言わなかった。それでも、葵に伝わったらしかった。



〜続く〜