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「辛気臭い話は、終わりっ。」
愛理さんが、そう言って立ち上がる。
「片付けとくから、座ってて。臨月に無理しちゃダメだよ。」
「そうしとく。」
「ねぇ、赤ん坊は何時、生まれるの?」
みつが、キラキラした目で優斗さんに聞いた。
「予定は、来週の土曜日だよ。絶対に可愛い息子が、生まれるはず♥」
「猿顔、だったら?」
「それでも、可愛い♥」
葵に負けない親馬鹿っぷりに僕と、鈴花は呆れていた。
鈴花達と、別れた僕はダンスレッスン開始の2時間前には、第3レッスン室にいた。約束をしなくても、その時間には大概、青葉が自主練習をしていたからだった。(自主練習していない時は、体調が良くない時らしい)
「珍しいね、陵介が2時間前にいるなんて。」
陵介は、レッスンの時は予定の15分前に来る事が多かった。
「そう?」
「たまたま、近所の皮膚科でバッタリ会ったんだよね。それで、自主練見てくれるってなってさ。」
「皮膚科?」
「ニンジンと、ジャガイモに引っ掻かれた所が膿んじゃってさ。あ、ニンジンとジャガイモは、実家で飼い始めた元野良の仔猫ね。」
青葉の言葉で、病名を推察するに猫ひっかき病。僕が、過去に診た事のある病気だ。
「青葉は、猫ひっかき病で陵介は、その蚊に刺されたみたいな湿疹からして蕁麻疹でしょ。」
「鯖アレルギー、再発したみたいでさ。疲れてんのかな…。」
「受験生特有のストレス、とか。受験って、ストレス溜まるしね。青葉は、例外だったみたいだけど。」
僕は、ストレッチしながら言う。
「オレ、重度のピーナッツバターアレルギー持ちだったから、しょっちゅう入院しててさ。ピーナッツバターが、周りにあるってだけで、ダメだったみたいで。小学校3年生位から、勉強分かんなくなってそのままにしてた。だから、勉強の仕方って分かんなくてさ。テスト前とか高校受験の時とか、ほとんど勉強してな…。」
「自慢気に語る内容じゃ、ないだろが。青葉の悲惨な成績で、入れる高校があったのが、奇跡だよ。」
「その奇跡の底辺高校、通り魔に襲われて入院してて、卒業出来なかったけどな。校則で、留年は1回だけ許可するって、なってたし。動けなきゃ通えないし、諦めた訳よ。」
サラリと、言う青葉。
「簡単に言うけど、ナイフで刺されて植物状態だったんだよ?下手したら、死んでたってのに…。」
青葉の言葉に突っ込むのは、僕。青葉の言葉からは、深刻さが全く感じられなかったからだ。
「ポディティブに捉えて、生きてんの!!」
青葉の言葉を陵介が、半笑いで訂正する。
「ポジティブ…?どうりで、スマホの辞書アプリ引いても出ない訳だ。」
「義務教育の勉強、やり直そう!!クイズ番組なんかに出たら、馬鹿がバレるだろが。」
馬鹿故にガチのクイズ番組に青葉が、出演した事はない。(デビューして、程なく事務所に馬鹿が、バレたかららしい。)
「最近、ステップ1年生を始めたんだ。タブレット端末だから、かさ張らないんだな。」
何時か、青葉がクイズ番組に出演したら、生暖かい目で見守ろうと、この日僕は、誓った。
〜続く〜