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気が付くと、僕は母校の桜が丘学園の辺り(高等部と、中等部の共有建物の裏手)を走っていた。“ちょいと、走ってくる”つもりだったのに4駅分、しかも途中、通学路を無意識に走っていた事になる。
「帰るか…。」
僕が、そう呟いた時後ろに人の気配を感じた。少し、警戒しながら振り向くと、高等部時代の担任亀岡先生が立っていた。
「先生、お久し振りです。」
「桜井君、立ち直ったみたいで良かった。」
「あの時は、有り難う御座いました!!」
僕の1番の理解者だった親友の南野葵が、脳腫瘍で亡くなってから、9年経った。当時、葵は新婚で、葵の妻となった人のお腹には、双子がいた。
僕は、落ち込んだりしてる場合じゃないって無理矢理笑っていた。その事に真っ先に気付いてくれたのが、亀岡先生だった訳で。
「そだ、合宿所を桜井君に調べて貰おうと思ってたんだ。」
「何故に、合宿所を…?」
「ラップ現象があるだとか、お化けが出るだとかで、あそこに泊まるの生徒達が嫌がるんだよね。」
「あの、僕部外者だし…。入校証、必要なんじゃ…。」
「あー、卒業生なら大丈夫だろ。」
合宿所は、3階建てで1階は、運動系同好会の部室とシャワー室が並んでいた。そして、合宿所の2階・3階は廊下を挟んで、広い和室の部屋が4つずつと、トイレという和風な作りだった。
どの和室の部屋にも、襖と押し入れが、あり障子付きの大きな窓からは、殺風景な住宅達が見えた。広い和室の1室は、茶道部の茶室として使われていた場所で床(とこ)の間があり、有名な横山大成の作らしい掛け軸と市松人形が、飾られていた。
僕は、迷わず床の間のある部屋へ向かい市松人形に目線を合わせた。
「言ったよな?今度、問題起こしたら焼き払うって。似た台詞(せりふ)を過去3回、聞いてるはずだよな?」
僕は、市松人形を睨み付けた。
「その人形、理事長先生が捨ててくれって、言ってたんだけど亡くなられた杉浦校長が、気に入ったらしくてここにあるらしいんだ。元々、理事長先生に捨ててくれって言われてたし…。」
「あの、僕引き取っちゃダメですか?」
「気持ちは、嬉しいんだけどね…。」
粘った末に僕は、市松人形を引き取った。
〜続く〜