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囲碁セットを部屋に運び込み、僕は入門書をパラパラめくった。
「そんなので、理解出来るの?」
為吉君が、聞くのも当たり前だった。
「うん。何でか、分かんないけど丸暗記出来ちゃうんだよね。普通は、あり得ないみたいだけど。」
「小狼って、化け物なんじゃないの?」
「そうだよ。」
「そこ、否定するものじゃないの?」
「だって、本当だし。死んだ母は、日本人って言ったけど、正確には日本生まれの九尾の狐だし。」
「化け物、訂正するよ。おいらも、化け物なんだって気付いたから。」
そして、しばらくの沈黙。それを破ったのは、為吉君だった。
「そうなの?」
「おいら、強いよ。」
僕の脳内で、ゴングが鳴る。結果は、5戦して4勝1敗で僕の勝ち。
「参りました。今日、始めたばかりの小狼に負けたー。」
「囲碁、楽しいから趣味にしちゃおうかな☆」
「まぐれでなら、ありそうだけど。」
僕は、時計を見た。対局に夢中で、気付かなかったけれどお昼をとっくに過ぎ、午後4時近くだった。
微妙な時間なので、為吉君にとって最高級品な果物のバナナを半分ずつ分け合った。
「え、半分も貰っちゃって良いの?」
「先生、してくれたお礼に。」
「お礼って、多いよ…。」
「少ないかなって、思ったのに。遠慮しないで、貰っときなよ。」
バナナ半分を半ば強引に為吉君に押し付けて、僕はランニングウェアに着替え、入念にストレッチをした。
「ちょいと、走ってくる。」
「分かった、行ってらっしゃい。」
僕は、部屋を出ると無心で、走り出した。
〜続く〜