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僕の熱は、一晩で下がった。
「小狼、大丈夫?」
「うん、もう大丈夫。みつ、心配してくれて有り難う。」
「昨日、すごく怒ってたけど…。」
「あ、見てたの?冷蔵庫開けたら、0点の算数と社会のテストが出て来て…。」
「双子の仕業って、訳ね。それは、小狼じゃなくても怒るわよ。」
「0点なんて、誰に似たんだかね。葵のテスト、75点以下なんかなかった。出席の問題で、通知表は10なんてなかったけど、5以下はなかったのに。」
みつは、僕の話を時折相槌を打ちながら、聞いてくれた。
「気付いてた。」
葵の事を思い出す時、真っ先に登場するのは笑顔の葵。だからなのかもしれない、僕の顔が優しくなるのは。
「杉浦先生に似てるの。杉浦先生もね、私にそんな顔してくれてたから。捨てられそうな私を“茶道部の使ってる部屋に飾ろう”って、言ってくれて。時々、会いに来てくれてた。私、杉浦先生の亡くなった娘さんに似てるんだって。」
みつの表情が、優しくなった様に僕は、思った。
「直人、お早う。早起きだね。」
突然、葵が部屋の扉から、顔を出した。
「葵こそ、早起きじゃん。まだ5時前なのに。」
「直人が、心配で布団で、スヤスヤ寝られる訳ないじゃん。あ、何か食べたい物作るよ?」
「久々に葵の作ったアップルパイが、食べたいな。」
「材料、あったかな?材料、探して作るよ。」
葵が、作るお菓子や料理は、どれも美味しい。そして、お菓子作りは有名パティシエも、唸る技量と才能を持っている。
そんな葵が、残した手書きのレシピは多分、日本一詳しく書かれている。しかし、僕が葵のレシピ通りに作っても、葵の作ったお菓子と同じ味にならないのだった。
「アップルパイを焼いてる間にお粥、作ったから食べて。」
「有り難う。ごめんね、心配掛けちゃって。」
「やっと、直人の気持ち分かったかも。直人、“またか”って顔してたけど、何時もこんな思いしてたんだろうなって。」
「僕、後悔してるんだ。葵を病院から、連れ出しちゃった事。僕が、連れ出さなかったら…。」
葵は、僕の言葉を遮った。
「直人は、悪くないよ!!それに…。」
「もしも、あの時…って言ってたら、キリがないよね。」
「ちゃんと、分かってるじゃん。」
葵は、そう言って僕の頭を撫でた。その手は、氷の固まりを触っているかの様に冷たかった。
〜続く〜