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2005年12月23日(金)[2]
「葵、拗(す)ねてるの?」
布団を被って、直人と目を合わせない様に努める。嘘が、バレないように考えたのだった。
「直人に会える日が、減ったから、寂しかった…。」
僕は、先程の事に触れない様にした。触れたら、嘘がバレそうだと、思ったからだ。
「ごめん!!」
全力で、直人が謝る。
「東都パフェおごってくれたら、許す…。デビュー曲、格好良かったよ。」
思えば、脈絡のない事を僕は発していた。
「本当?有り難う。」
直人は、とても喜んでくれた。
「橋純…橋本純が。」
そんな直人を僕は、からかう。
「僕は?!」
「直人も、格好良かったって…。」
それを聞くと、直人は笑顔になった。
「格好良いって、言われたら、買って来るよ、東都パフェ。」
「有り難う…。」
東都パフェは、東都医科大学名物のパフェで東京タワーの333mにあやかり、3m33?のパフェだ。学食のおばちゃん曰く、1人で完食したのは、おばちゃんの知る限りただ1人、直人だけらしい。
「葵、買って来たよ!!」
すぐに直人が、買って来てくれた。
「有り難う…。外のベンチで、食べる!!」
「寒いよ?」
「着込んでくから、平気…。」
僕は、水玉模様のパジャマの上から薄ピンクのカーディガンを着て、その上に紺色のコートを羽織ると、点滴スタンドに手を掛けた。
「寒っ…。」
外は、思ったよりも寒かった。震える僕に直人が、身に付けていたマフラーを貸してくれた。
手近のベンチに腰掛け、「有り難う…。パフェ、2人で、食べよ。」と、僕は言った。
「良いの?」
「うん…。抗癌剤が、効かないからって、どんどん強力になって…。食欲減退状態だし、吐き気が酷いしで…。点滴を始めたら、何も食べられない日とか、普通にあるし…。」
不思議と、僕は直人になら、何でも話せてしまう。誰にも、言えない悩み事もあっさり、言えてしまうのだ。
「辛くない?」
直人が、心配そうに僕に聞いた。
「何か…、慣れた。それに1秒後も、生きてたいし…。」
直人が、「葵、すごいな。」と、呟いた。
「やっぱり、誰かがお見舞い来てくれた方が元気かも…。実は、昨日のお昼から、気持ち悪くてろくに食べてないんだ…。」
僕は、正直に直人に言った。
「大丈夫?!」
「大丈夫…。直人の顔を見たら、スーッと気持ち悪いのが、消えたんだよね。」
僕は、そう言ってパフェを食べ始めた。
「美味し(ハート)」
「良かった。」
「中等部1年の時にさ…、人生設計したけど予定外だらけだな。」
僕は、授業で人生設計という物をしたのを不意に思い出した。“●歳で、何をしている”と、いう未来年表だった。年表通りなら、80歳迄生きる予定なのだが…。
「今頃、何してる予定だった?」
直人も、思い出した様だ。
「オリンピック代表入りしてる予定だった。直人は?」
去年のアテネオリンピック。僕は、陸上を止めてなかったら出場していたかもしれない訳で。
「僕は、オリンピック代表入りした葵を追っ掛け回してる予定だった。」
この後、僕と直人は、しばらく人生設計の話題で盛り上がっていた。
〜続く〜