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梅雨らしくない天候の続く、6月。僕は、久々に実家(正確には、養父母の家なのだが)へ向かった。
「帰ってくるなら、連絡くらいしなさいよね。」
「ごめんっ!!近いから、つい…。」
「直人、また変なの連れて来てるぞ。」
養父に言われ、振り返ると為吉君が、相変わらずの薄汚れた服を着て立っていた。
「えっと、同居人の鈴木為吉君。」
「相変わらず、幽霊に好かれてんだな。」
「英太郎、いたんだ…。」
英太郎は、僕の義弟。
「代休、貰ったんでじーちゃんの部屋の掃除をね。そしたら、遺言書が出てきてさ。」
「遺言書?」
「じーちゃん、あんな所にいたんだ。」
「一時期、民間人として住んでたんだってさ。で、強制疎開する時に仲良くなった兵士の方に手紙を託されたんだけどご家族は、疎開してて渡せなかったって。色々、手を回したらしいんだけどいまだに分かんないみたい。」
「僕も、捜すよ。」
遺言書には、じーちゃんの無念な思いが書き連ねられていて、封筒には佐藤さんの家らしき住所が記されていた。
「ここの住所、知ってると思う。」
封筒を見た為吉君が、言った。
「今の桜が丘ハイツのある所から、すぐ近く。陸軍さんの家だと、思う。今は、椎名さんって人が、住んでる。佐藤さんは、陸軍さん以外に住んでない。」
「詳しいね。」
「伊達に68年、幽霊してないやい。」
手伝うと言ってしまった手前、見付け出さねばなるまい。
「んで、直兄が帰って来た訳は?」
「本題、忘れる所だった、英太郎の囲碁セットを借りたいんだった。」
「囲碁を覚える必要性が、生じたから借りに来たの。ブームとか、どうでも良いし。」
「有り難う、漫画以外借りてくね。」
「イカルの碁、面白いのに。」
「全巻、読破済みだからいらない。」
そして、僕は碁石の入った入れ物を段ボールに詰め碁盤と、共に歩いて持ち帰ったのだった。
〜続く〜