希乃子の小説、読んで下さいm(__)m

駄文な小説を書いてます。

僕等の街で。


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 僕は、アパートの前に向かった。何も知らないという風を装って、顔見知りのプロデューサーと、ADに挨拶した。
 そして、今後一緒に仕事をするであろう、初対面のスタッフに名刺を渡す。口頭の簡単な自己紹介だけで、僕はすぐに相手の名前と、顔を脳内にインプットした。
 僕の自然な演技に気付く者は、いなかった。何故、ここにロケに来たのかを説明してくれ撮影の交渉を始めた。
 「あの、霊能者さんってどなたなんですか?」
 「あちらの作務衣姿の方だよ。」
 アパートを睨み付けている霊能者なる男を僕は、知らなかった。そういう人は、60パーセントの確率で、インチキ霊能者なので僕は、鎌を掛ける事にした。
 「今日は。霊能者さん、ですか?奇遇ですね、僕も本業は、それなんですよ。」
 男を注意深く観察する。インチキ霊能者の疑惑が、濃くなる。
 「そうなんですか?あ、申し遅れました。小生は、こういう者です。」
 男の名刺には、“晴明流 安倍清流”なる文字。聞くと、安倍晴明が始祖らしい。
 安倍晴明なんちゃら、なんていう話をするのは、インチキ霊能者に多い。
 「じゃあ、僕も名刺を…。」
 皇家流白呪術師名義の名刺を安倍清流に渡す。
 「皇家流呪術師…?」
 「知らないですか?」
 「知らないですね。」
 「なら、貴男は偽物ですね。」
 安倍清流が、あたふたし始める。
 「皇家流を知らないなんて、霊能者はこの世にいないはずなんです。僕の祖父、中国皇家の長は世界中の霊能者の間で、“生きる伝説”って呼ばれてる位、有名らしいですから。」
 そして、最後にとどめの一撃。
 「貴男、そもそも霊感ないでしょ?守護霊さんの声、聞こえてないみたいだし。守護霊さん、悲しそうな顔してる。」
 安倍清流に反論する隙を与える前に彼の守護霊が、僕の体に飛び込んだ。それは、彼の母親の様だった。
 彼を叱り飛ばし、彼と供に撮影スタッフに謝罪した。彼女が、僕の体から抜け出すと、僕はよろめいた。
 「撮影、すみません。出来なくしちゃって。」
 「あー、気にしないで。5年前の富士の樹海ロケで、大きな借りがあるし。今日のも、借りだな。今日の分は、何時か返すから。」
 プロデューサーが、笑う。
 「じゃあ、今度テレビ美京(びけい)の番組に呼んで下さい♪」
 「年末特番辺りで、考えとく。」
 
 
  近所に住む、野次馬達や撮影隊が、消えると僕は、葵と、為吉君を捜した。みつは、寝室の窓際のCDラックの上で動けない振りをしていた。
 インチキ霊能者だったと、為吉君と、みつに伝えると苦笑いだった。
 「安倍晴明を持ち出す時点で、99パーセントインチキ霊能者だって思ったんだよね。」
 「安倍晴明?」
 為吉君には、聞き慣れない人物だったらしい。
 「平安時代に活躍したって、言われてる陰陽師だよ。妖怪退治したり、幽霊退治したり占いとかも、してたみたい。直人も、そんな感じだよね。」
 「ちょっと、違うけど。」
 「直人は、黒魔術とかにも詳しいもんね。だからって、知識を悪用しないのがすごいよ。」
 黒魔術や、黒呪術は鍛錬を重ねた人でも、簡単ではない。失敗すれば、最悪の場合は術を掛けた本人が、死亡してしまうリスクがある。
 だから、僕は皇家流黒呪術の伝承をする気は、ないし封印したのだった。
 
 
 
〜続く〜