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cafe cloverを後にして、僕と李君は、さくらハウスに向かった。さくらハウスは、浅原園の作ったグループホーム型児童養護施設で3棟(アパートの北側半径1キロ以内に点在している。)各4人の子と、2人の職員で構成されている2階建ての一軒家の様な建物だ。
僕は、李君の言動や息遣い等、細部迄注意しながら、歩いた。
「友達…初めて出来た。」
「僕、初めて僕と、友達になりたいって言われたの陸と、海のお父さんだったな。」
「そうなんだ…。」
「うん。陸と海のお父さんが、片言の中国語と身振り手振りで、必死に会話しようとしてたから、僕 が日本語覚えなきゃ中国語を話せない人には、上手く伝わらないって気付いてさ。」
その時の場景が、僕の脳内で鮮明に甦(よみがえ)る。
「李君、昔の僕と少し、似てる。」
僕は、そう言って笑う。李君も、僕に釣られたのか微笑んだ。
「さくらハウスの人や、浅原園の人に言えない事とかあったら、僕が聴くからね。」
「あ、僕のアパートここの1階のカーテン閉まっている所だから。」
「小狼の家、綺麗…。」
「幽霊アパートなんて、近所の人には言われてたりするんだけど。実際に僕、幽霊と一緒に住んでるし。」
「怖く…ないの?」
「優しい幽霊だから、大丈夫。」
「あ、おかえりー。」
さくらハウスの庭で、洗濯物を取り込んでいた大里さんが李君に声を掛ける。
「ただいま…。」
「今、皆で短冊作ってっから、龍(ロン)も手伝って、くれたら嬉しいな。」
大里さんは、さり気なく李君を遠ざけると僕に2階の部屋へ行こうと、促した。
「麦茶で、いかっぺ(良い)?」
僕は、丁重に麦茶を断り畳に正座した。大里さんは、李君の近況を話始めた。
「里親、見付かりそうなんだ。」
「んだ(そう)、星野文具店の星野さん夫妻が引き取りたいって、名乗りをあげてんだ。里親に相応しいか、見極めてるとこなだ。」
「それで、cafe cloverの辺りにいたんだ。」
「小狼君が、たまたま浅原園にいたから助かっただよ。有り難う。」
「どう致しまして。」
そして、僕は李君が、半年前の事を全て思い出した事を告げた。
「本人が、言う迄知らない振りしとくべ。」
「後、cafe cloverの南野兄弟と友達になったよ。」
「ちくで、あんめ(嘘じゃない)?」
「嘘吐(つ)いて、どうすんのさ。」
「だよなぁ、大事(おおごと)だったからよ。」
大里さんは、5歳の僕を知っている数少ないベテラン職員で、“小狼と、李君は似ている”と、感じているとも言った。
「あの、僕が茨城弁理解出来るからって、茨城弁で話すのやめてくれません?」
「いかっぺよ(良いだろ)、茨城弁分かんだから。」
「そうですけど、標準語に戻った時の違和感が半端ないから、嫌です。」
「標準語、話せるけど茨城弁の方が、良いんだよ。茨城の田舎育ちだから。」
「ごめんなさーい!!」
「オレ、やっぱ地元とメロン大好きだな。重度のメロンアレルギーになってなかったら、鉾田でメロン農家を継いでただろうなって、思うもん。今頃、イバラキングとアンデスメロンにクインシーメロンを作ってたかもね。」
メロン農家の長男なので、大里さんはメロンの品種に詳しいし、メロンの食べ頃なんかもあっさり、見極められる。
「メロンの話してたら、メロン食べたくなった。」
「死にたいなら、どうぞ。」
「メロン、食べてお陀仏じゃ、洒落になんないし止めとくよ。」
僕は、相槌を入れようとしたけれど突然、現れ僕に緊急事態を知らせに来た葵に驚いて言葉が、引っ込んだ。
「あの、僕帰ります!!」
引っ込んだ言葉の代わりが、これだった。
「あ、もしかして用事あった?」
「僕のアパートに霊能者を連れたテレビ局の人が、来てるみたいで追っ払わなきゃいけなくなったんで。」
「気を付けて、帰るんだよ。」
僕は、その言葉には応えずにさくらハウスを後にした。
〜続く〜