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2005年9月1日(木)[1]
溜め息しか出てこない直人に僕が、言う。
「さっきから、溜め息ばっかり。幸せ、逃げてくよ。」
「そうなんだけどさ…。」
桜吹雪の練習が、始まると直人の溜め息も、消えた様子だった。
「やっぱり、黒田さんと、南野君を選んで、正解だったわ。」
桜沢先輩が、自画自賛する位今年の作品は、完成度の高い物になっていた。去年の今頃は、完成度が低く、皆焦っていた。
「南野君も、凄い!!大道具も、音響も、照明も、完璧に出来るんだもん!!」
滅多に練習に参加しない(正確には、出来ない)直人が、あっさり裏方をこなしているので、桜沢先輩が目を丸くして驚いていた。
「知り合いの劇団員の人に丁寧に、教えてもらったんだ♪実際に、いじらせてもらえたし。」
そう言う直人に僕は、反論。
「違うでしょ?質問攻めにして、困らせたの間違いでしょ?それよりさ。緊張してる?」
直人の口調は、一見軽く感じるけれど目が、笑っていなかった。
「従姉(いとこ)の術を受けなきゃいけ無くて。何時来るか、分から無いし、失敗されたら、どうなるか…。」
直人には、5歳年上の姉の様な従姉がいるらしかった。幼少時には、従姉に会うのは密会状態だったらしく、堂々と会うのは、初めてなハズだ。
「イトコ?」
タクが、直人の口から初めて聞く言葉だったのか、驚いていた。
「5歳年上で、周明(ジョウミン)っていうんだけど。中国の総本家に変化解除の術を受けるに相応しい人間が、いないから僕が、試験判定をする羽目になっちゃって。前に練習で、術を受けた時は胃に穴が、空いて絶食したし、その前は軽く死にかけたし…。不安なんだけどさ。」
初めて、聞いた僕は直人が、簡単には死なない男だと、知っていても不安になった。
「それ、ヤバくね?断れよ、そんな危険なら。」
ニノが、直人に言い、タクも、同感だと頷(うなず)いていた。
その時、「すみませーん。こちらに桜井直人が、いるって聞いたんですけど。」と、言う女性の声がした。
その場にいた全員が、振り向くと黒に金刺繍の龍があしらわれたチャイナ服に身を包んだ女性が、立っていた。
「周明!!」
直人が、声を掛ける。
本人と、判断すると周明さんは、中国語で話し出した。僕が、中国語を理解出来ると知らないからか、そんな事を言う。
「まさか!!似た名前の誰かとの間違いでしょ?!」
もちろん、直人はそんな事を今は、していない。
「小狼が、今そんな事、する訳ないか。」
「それよりさ、試験やらない?」
緊張している直人が、言う。
僕、以外がポカーンとしている中で試験が、行われた。周明さんが、呪文を唱えた後に眩(まばゆ)いばかりの光の中から、現れたのは白銀の狐の耳にマリンブルーの長髪と、マリンブルーの瞳の男。
「まあまあだ。」
直人の声や表情は、感情を押し殺していて友達になったばかりの頃の直人を彷彿とさせた。
「連れて帰っちゃいたい位、可愛い(ハート)」
そんな直人に周明さんは、抱き着く。
「そんなにオレを怒らせたいと…、良い度胸だな…。」
直人が、本気でキレて、バトルが勃発したら、大変な事になる。僕は、2人を止めようとした。
声が、出ない。足が、動かない。僕は、意識が遠退いていくのを感じた。
〜続く〜