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駄文な小説を書いてます。

愛と勇気と時々希望を持って

愛と勇気と時々希望を持って


       桜井直人


2005年4月15日(金)


 一昨日迄の風邪を引き摺(ず)っている微熱と、頭痛と倦怠感なんかを気にしながら、鈴花と直人と歩いていた。
「お母さんの命日、忘れてたのよ。酷くない?」
鈴花の父親に対する愚痴を幾度、も延々と聞かされている僕は、良く次々出てくるもんだと、毎回感心してしまう。ちなみに鈴花の父は、東都医科大附属病院の血液内科医で虚弱体質の僕は、過去に何度もお世話になっていた。
頭痛が、酷くなり僕の記憶は、暗闇へと遠退いていった。
気が付くと、真っ白な天井。傍らには、またかって顔の直人。
「74回目。」
何の数字か、分かる。僕が、道端でぶっ倒れて、病院に運ばれた回数だ。
「ごめん…。」
「265回目。」
そして、直人に謝った回数。
「僕に何か、隠してるでしょ?」
直人に聞かれる。
「一昨日迄、風邪をひいて寝込んでた…。今日は、まだ風邪を引き摺ってて…。」
「気付かなくて、ごめん。」
直人は、僕を叱らなかった。
「うん…。」
「あ、朴(ぱく)先生がさ葵の事、問いただすとか言ってたよ。」
僕は、起き上がる。右腕に点滴が、付けられぶら下がっている。
「また、長期入院かな…。」
直人が、僕の頬っぺたをふにふに触りながら、「葵、愚痴とか聞くし。」と、言う。言葉を選びながら、話してくれている。“頑張れ”を言わない様に。
「有り難う…。」
「葵、帰るついでに起きたって言ってくるよ。」
直人が、部屋から消える。僕は、直人に気を遣わせてせてしまったので、落ち込んでしまう。
「葵、お早う♪」
僕の主治医の1人、脳外科医の朴秀人(ぱくしゅうと)先生程、空気の読めない男はいないと思う。
「先生、今日非番だって…。」
「小児病棟にいたのが、運の尽き。葵のせいで、呼び出された。」
「翔(かける)君との時間を邪魔して、ごめんなさい。」
翔君は、朴先生の溺愛してる息子さん。詳しくは知らないが、心臓疾患で入退院を繰り返している。
「相談、乗ってくれるなら許す。」
「相談?」
「そ、相談。実はさ、最近ウチの翔がパパの事、嫌いとか言い出しちゃってさ。」
「何か、分かります。」
「今日、口を聞いてくれなくなっちゃったんだよ。」
「今度、さりげなく聞いてみますね。」
僕は、そう答える。
「有り難う。」
朴先生が、笑う。
「僕、また…。」
「うん、また入院してもらうしかないね。色々と、詳しく検査したいし。詩織ちゃんから聞いたよ、一昨日迄風邪で、寝込んでたんだって?」
問いただされる予定な割には、然り気無い質問。
「2日間、頭痛と高熱と、倦怠感で寝込んでました。」
お薬手帳、見たよ。桜井君が、持って来てくれて。」
「ダルくて、動けなかったから何処にも行けなくて。」
「昨日には、復活したの?」
「まだ、引き摺ってて。頭痛と、37℃前半の微熱と体のダルさが、残ってるから近所の内科医に診てもらおうかなって…。」
「葵、この先は落ち着いて聞いて。」
少し前のにこやかな空気は、消えた。
「脳腫瘍が、再発してるんだ。しかも、広範囲でね。それでだ、他に転移してないかとか影響してないかを調べたいんだ。」
僕は、笑う余裕があった様だ。笑顔で、「何でも、掛かって来い!!」と、言ったのだから。



〜続く〜